第42話 NNWM-20

文字数 1,346文字

それは、本当に死闘だった。

普通、別次元から来た者は惑星の魔力の恩恵を受けにくい。自身の身体をゲートとして自分の次元の魔力を呼び込んで魔法、奇跡、技を使用するため元の次元に比べて、疲労が早かった。魔法発現税とでも言うべきだろうか?

しかし、侵略者はこの次元の肉体を見事に培養した。本来なら有り得ない程の強さと量の魔法を操る。炎を纏って何本もの剣を飛ばし、稲妻を纏って落雷の道を作り、漆黒を纏って空間を汚染してみせた。

大きな力の濫発は培養したての肉体にかなりの負荷をかけていたらしく、徐々に肉体が変貌を遂げていく。最後に行き着いたのは蛾の羽を生やした四足の獣みたいなナニかで、人の姿ではなくなってしまった。そして自我を無くし、魔力を制御しきれなくなった後、ナニかは聖なる力まで使い出す。肉体を培養したように、自我を失うギリギリまで魔力を行使する回路も改竄していたようだ。

それでも、私たちは死闘を制した。意思あるマントの助けを借り、魔法の槍を杭を打ち込むように蹴り込んだ一撃が、侵略者にトドメを刺す。その攻撃と共に、また私の右脚が壊れた。

壊れた右脚を呆然と見つめて、ナニかを倒しても右足が戻ってこない事実にショックを受けたが、別の疑問が湧いてきて自分の腕を見る。

腕の焦印が……消えていない。

周囲の瓦礫の山と化した街に、ゆっくりと視線を向けていった。

「どうしましたか?」

支えてくれるペチュニアに音を立てない様にジェスチャーで伝えると、それを発見する。影に投げつけた六角形のコインが一瞬で光輝く手斧となって路地の壁に突き刺さった。影が霧散するが、対して手応えを感じない。

「……焦印は私を焚き付ける茶番だったというわけですね。王妃殿下のご提案でしょうか?」

今度は石獣ではなく、第3王子殿下が姿を現した。幾分顔から血の気が引いているように見受けられるが、気にしないことにする。

「それを知った、お前はどうする? 今度は国を相手に戦うか?」

「いえ、別に。確かに多少は恨みを込めて投げましたが、とりあえずこの焦印を解除してください。石獣はおろか、同じ人間にまで行動を監視されるのは、まっぴらごめんですね」

第3王子殿下が呪文を詠唱すると、私の腕から焦印が綺麗に消え失せた。

「申し訳ありません。石獣たちが我が国の領土に都市を建造してみせた時点で、彼らと因縁の深いあなたを利用するという算段は、出来上がっていました」

「そんな複雑怪奇な諸外国への心象操作をする暇があったら、さっさと兵を出せば良いものを」

「案外、別の次元と戦争中かもしれんぞ。おっと俺らは何も知らんぞ、第3王子殿下」

リロドンの修復者と元神武官は、もう少し詳しく事情を知っていそうな気がする。ひとまず2人を制しておいた。

「国の政に首を突っ込むもんじゃないさ。ひとまず、帰ろう。来たときと同じく霊道を使った方が良いかな?

第3王子殿下は、その言葉に肩をすくめて見せる。

「確かに、そうですね。そろそろ母上の魔法が完成するでしょうから」

『……はぁ!?』

その場に立っている、第3王子殿下を除いた全員が一斉に声を荒げた。

霊道から街を見下ろすと、地面を突き破って生えてきた巨大な蜘蛛のような足を器用に使って廃墟と化した街を抱き抱える。そのまま、地面に消えていくのが見えた。
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