エピローグ

文字数 429文字

 結局、小説は進まないまま、春の貴重な休日は終わりを迎えようとしていた。ダイニングテーブルには、お礼とお詫びを兼ねた土野の手料理が所狭しと並んでいる。
 依光はだらしない顔で料理を褒め、羽室は黙々と箸を動かしている。土野は得意げに隠し味がどうのこうのと説明している。
 味噌汁をすすりながら、春は代わり映えしないであろう明日を思って憂鬱になる。どうでもいい特性を持った三人は、春の憂いなど気にも留めず楽しそうに笑顔を交わす。
「春原くん、みんなで食べると美味しいね」
「春、素直になりなよ」
「春さん、楽しいっすよね」
 いや、あきらめまい。きっとどこかに非日常的な面白いネタが、小説になりそうな出来事が転がっているはずだ。それを上手く拾いあげて、おれは小説を書いてみせる。そして、この平凡な日々とおさらばしてみせる。
「まあまあだな」
 春の返事に、退屈な顔ぶれが一斉に笑い声を上げた。

                                        ―了―
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