第4話 東海道瞬間線

文字数 1,164文字

20@@年近未来の東京駅、駅長の大坂氏は朝から気忙しかった。それというのもJRと国が合同で進めていたプロジェクト「東海道瞬間線」が竣工の運びになったのだ。

東海道瞬間線は、ワープ技術を応用して東京〜新大阪間を僅か0.1秒で移動する画期的なもので、世界に先立ち日本が実現させた正に夢の鉄道である。

「......今日、運よく抽選に当たり竣工の席につかれる100名の皆さんは、大坂城のレトロを愛する会ということで、これも何かの縁ではないかと....」、運輸大臣の安楽化氏が祝いのスピーチを終えるとホームに集まった各国の記者からフラッシュの雨が注がれた。

ルモンド記者「ジンタイニハ、エイキョウシマセンカ?」

安楽化氏「その点は御心配ありません。既に食いっぱぐれニートの治験バイトを使って人体実験は済ませてあります。あっ、言葉が過ぎましたか?すみません」

「まさに東海道瞬間線は、我が国のトップテクノロジーの象徴であり....」首相からの紋切り型の祝辞が代読されると、ホームに設えた紙テープが運輸大臣と駅長によって切って落とされ、大坂城のレトロを愛する会100名は、万雷の拍手の中、不死鳥のような美しいフォルムのワープ車両へと乗り込んだ。

駅長は、ここで心中に暗雲が垂れ込めていた。先のプロトタイプのリニアモーターでさえ、そのGが人体に及ぼす影響が考慮されたのである。

ましてや瞬時につくとなれば、人体はミンチ挽肉の様になってしまうのではないか。怖くなった駅長は、ワープゲージをバックワードの方向へ100だけ戻し安堵した。「そうだ、これが駅長としての思いやり、忖度なのだ」

駅長が笛を吹き手信号を送るとワープ車両は僅かに振動した後、ホームから消え去り、同ホームに設置された拡大スクリーンには受け入れ側の新大阪駅のホームが映し出された。

しかし、待てど暮らせどワープ車両は新大阪駅に出現しない。ホームは、ザワつき始めた。「失敗したのか」「いったい瞬間線はどこに行ったのか」「これでは神隠しではないか」、駅長は這々の体で姿をくらました。

「えーい、邪魔だ邪魔だー。そこの長籠に乗った町人風情、戦さの邪魔じゃどけーい!」、ワープ車両から降りた乗客たちは、火縄銃を担いだ兵士に一喝された。

「今、えっと今日は?」、「何を寝ぼけておるのだ、今日は慶長二十年五月六日、大坂夏の陣の真っ最中ではないか」、みつばの葵の幟を立てた兵士は乗客の質問に呆れかえって応えた。

「太秦より堪能できる」、「JRはこんなサービスまで用意していたのか」、「リアルインスタ映えだ」、町方がうやうやしく土下座してるのを横目で見ながら、乗客たちは歓声を上げ万歳三唱した。「やったー成功だ!」









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