第1話 AI信長

文字数 1,422文字

 20@@年、日本の首都東京。首相官邸の首相A氏は、「シンゾーに悪いのう」などと独り言を言いながら官邸内のあちこちを歩きまわっていた。

既に日本の国家財政赤字は末期症状を迎えて、病膏肓に至る現象にありながら、世界の番長米国のジョーカー大統領がみかじめ料として、米国国債はババ抜きにしてくれと言って来たのだ。

しかし全く望みが無いわけでもない。かねてから内閣調査費をつぎ込んで、民間業者AIフューチャーインベストメント社に依頼していたオーダープログラムAI信長が完成したというのだ。

「本当に使いものになるんでしょうね。公費をつぎ込んでいる以上、駄目だったら、責任者を太宰府送りにしますからね」、官房長官のスガワラが凄味を効かした。

「その点は御心配なく。過去の歴史資料を総合し、出来うる限りで信長のキャラクターを現代に蘇らせてございます」、社の営業マン・サイトウがジュラルミンケースの中から小型テレビの様なものを取り出して、官邸のパソコンに手際良く取り付けた。

「この銀色のボックスが信長の頭脳に当たり、パソコンのディスプレイとマイクを利用して対話するものであります」、サイトウがメタボのイノシシ首に吹き出す汗をハンカチで拭いた。

ディスプレイに早速信長らしき戦国武将が浮かび上がった。茶筅つむぎが荒々しく見える。「鳴かぬなら殺してしまえホトトギス。ワシに何のようじゃ?」、キャラクターはあくまで上から目線である。

「実は、日の本の国家財政赤字が末期症状でありまして、にっちもさっちもいかんのであります」、シンゾーは持病の動悸息切れをおして問いかけた。

「ふん、知れたことよ。この日の本は戦国の世から、地べたの取り合い。地べたは全て国のものにすれば良いのじゃ。民草は、地上権だけ争えば良い。これぞ真の天下布武の目的!」、信長は毅然としかつ明解に応えた。

先の総選挙で与党J党は大勝し、衆参両議院で過半数を占めている。野党は群雄割拠し、勢力が衰えている。もし、この法案が通れば、その瞬間に固定資産だけで赤字は雲散霧消する。

「殿!ありがとうございます!」、シンゾーがパソコンの前に土下座すると関係閣僚もこれに倣った。特に財務長官は、土下座した際に老眼鏡を床に落とし、「眼から鱗が落ちた」と感涙した。まさに中世の城中のようである。

早速に衆議院に法案が提出されると、能のない野党は、また例によって牛丼戦術に出た。牛のようにノロノロと歩いて時間を稼いでは、議席に戻るとテイクアウトの牛丼を口に含み、「もーヤダ」と繰り返す暴挙に出たのである。

しかし、衆議院で圧倒的な多数をしめるJ党は、この法案を通過させた。勝利を確信したシンゾー氏は、自ら丸坊主に刈り上げ、関係閣僚もこれに倣い、茶会を開いて参議院からの吉報を待つことにした。「この勝負もらった。ワシは本能で分かる」

参議院のJ党会派を取り仕切るのは、京都選出のアケチ議員である。彼は、党内では幹事長も歴任した実力派であるが、ケチで有名である。

誰もが参議院の法案通過確実と見られていたが、土壇場でアケチ派の議員たちが造反して反対に回り、この法案は廃案となった。

シンゾーは天を仰ぎアケチに問うた、何故?
「だーって、ウチの資産が目減りするじゃん。もったいねーしさ」

「是非に及ばず」、シンゾー氏はアケチのケチにしてやられた。


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