第3話

文字数 861文字

 僕の戦いの日々も今年で五年になる。この世界では遅い十一歳の入隊に関しては、やはり家の事情というものが大きかった。もちろん入隊は誰だって拒否したいものだ。けれど、現実を受け入れることが必要であり、それが進むべき道だったのだと確信している。
 僕は午前零時、つまり明日、誕生日を迎え十六歳になる。僕はコドモではなくなってオトナになる。五年に及んだ僕の日々は明日、終わるのだ。
 まだ、過去にライオン伯爵の犠牲になったメンバーも、多くのコドモたちも救えていない。ライオン伯爵さえ追い詰めていない。それでも僕は戦線を離脱することになる。時計の針が頂点を指すとき、僕にはもうライオン伯爵の姿が見えなくなっているのだろう。今夜が最後だ。僕はテーブル中央に置いた携帯型の通信機器を凝視し、いつ来るとも知れない連絡を静かに待っている。窓の外は閑散としていた。秋の冷たい風が吹いて、枯れ始めた街路樹の葉を揺らしていた。
 耳障りなノイズが客が少なくなったファミレスに響き渡った。僕たちはテーブルの通信機器に耳を寄せた。
「C地区で五人が不明! C地区、隊員が五人不明! 現在、ライオン伯爵はD地区に向かっているとの情報! 迎撃の準備……」
 再びのノイズのあと通信は途切れた。僕はキノシタさんに目配せをした。彼女は頷いた。ヤマザキくんの肩は細かく震えていた。それを必死で押さえようとしているのか、テーブルの上で拳を力強く握りしめている。
「これから僕たちは迎撃に入る。ヤマザキくんは訓練所で習った通りに行動してね。それと、これからの出来事を良く観察してほしい」
 ヤマザキくんは小さく頷いた。
 窓の外の景色が一瞬、歪みを見せた。僕は咄嗟に身を屈め、二人も同じように身を伏せた。僕はおそるおそる顔を上げて外を覗くと、一瞬だった歪みはさらに連続性を持って存在していた。それは伯爵が付近のどこかにいるという意味を呈している。じっと外を見つめながらキノシタさんに本部に報告をするよう指示を送った。本部からの返答が入った。ただちに応援を参戦させるとのことだった。
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