第4話

文字数 470文字

 音が止んだ。街の喧騒も、店内に流れていた音楽も聞こえない。窓ガラスが中央で捻れて渦を描いた。外の景色が歪曲する。立ち並ぶ外灯が捻れ、行きかっていた自動車が動きを止める。街と店内の灯りが消え、見えていた視界が暗闇に閉ざされた。室内の暖かくて柔らかな空気が、重く硬く冷たく変化するのを感じた。一瞬の小さな白い発光が窓の外に浮かんだ。それが拡大していくのを僕たちは確認した。そうして再び見えていた景色が動き出し、聴覚が元の感覚を取り戻す。
「来る」
 と、キノシタさんは窓の外を見つめながら呟くように言った。その時、窓が振動を始めた。テーブルの上に置かれたコーヒーカップは音を立てて揺れ、飲み残したマグカップのココアが波を打って零れ落ちるのを僕は見た。振動は止まない。僕は腰に備えた銃のグリップを握り締めた。
 店内の大人たちは何も感じず、何も知らず、談笑を続けていた。店員は普段と変わらずに仕事を続けていた。
「行こう」
 僕は二人に声をかけた。二人は頷いた。僕たちは外に向かって走った。店を出てすぐのところに車を停めていた。僕たちは素早く乗り込んだ。
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