第1話

文字数 1,166文字

 世界にはどれくらいの正義のヒーローがいるのだろう。地球の平和のために命を賭けて僕らを悪から守っているヒーローたち。テレビ、映画、漫画、小説、イラスト、アニメ、数え上げたらキリがない。彼らは同じ星の住人でありながら決して交わることのない別の世界でまた違った悪との戦いの日々を送っているのだ。
 
 C地区監視班から連絡が入る。
「現時点でのライオン伯爵について報告する。C地区Fポイントにて目撃情報後、Pポイントにて目標を消失。以後、状況に変化はないが情報が入りしだい追って報告する。担当班は戦闘に備え、警戒を崩さぬこと」
 時刻は21時。F地区K班のメンバーである僕と、キノシタさん、ヤマザキくんは国道沿いのファミレスで遅い夕食を摂っていたところだった。僕は口に運ぼうとしていたピザを取り皿に置いて、キノシタさんとヤマザキくんに頷きかけた。
「伯爵ですか?」
 ヤマザキくんが背筋を伸ばして目を丸くした。僕は頷いて、戦闘命令ではないことを説明した。
「ライオン伯爵……正直、怖いです。それに先輩たちの足を引っ張ってしまうんじゃないかと、ものすごく不安です」
 新規メンバーは大概同じことを言った。かつての僕も同じようなことを言ったことを思い出した。今日、加入したばかりのヤマザキくんの気持ちは良く分かる。それもまだ小学三年生なのだから仕方がない。
「誰だって怖いさ。それも一度目は殊更だ。でも心配しなくても大丈夫。しばらくは何もしなくて構わない。僕やキノシタさん、他のメンバーの指示に従ってそばにいてくれればいい」
 ゆっくりとした口調で僕は言う。ある程度の緊張と恐怖感は必要だが、過度になるとそれは判断を鈍らせることになる。例え逃げるといってもそれはその状況に応じた様々な判断がとても重要になるのだ。
「……わかりました」
 ヤマザキくんは両手で大事そうに白いマグカップを手に取り、ココアを一口飲んだあと、服の袖で口元を拭った。そんな動作を見ていると実際の年齢よりも幼く見えて、今後あたえられることになる任務を彼は全うできるのだろうか、と、いささか不安にもなった。

「あたしも最初は怖かったよ。だけど不思議とライオン伯爵と会うごとにそういう気持ちは消えていったし。今では半径一メートル以内に伯爵がいても冷静でいれると思う。よくいう慣れってやつ。いっぱい戦って、とにかく無事でいること。そうすれば必ず慣れるよ。あ、強引すぎる?」
 キノシタさんはくすっと笑って微笑んでみせた。僕とヤマザキくんもつられてくすくす笑った。
 彼女とは五年前から同じ班に属して戦いを共にしてきた。彼女はいつも冷静で的確な判断をし、それでいてどんな状況でも明るさを失わなかった。運動能力も高く、何度か危ないところを助けてもらったこともある。僕はキノシタさんのことをとても信頼している。
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