第4話

文字数 727文字

 それはあまりにも唐突であった。休日、気が済むまで眠っていようと思ったら母や妹に叩き起こされ、今日はクルージングに行くと告げられた。
「憲嗣ったらなんでそんな大事なこと聞き逃すのよ~」
「絶対言われてない。そもそもいつ決まったんだよ…」
「あたしが昨日お願いしたの!パパもママもすぐオッケーしてくれたんだよ!」
「あらあら、怖い顔しないで憲嗣。傷心の娘を放っておけないじゃない、ねえパパ?」
「…俺はまだ色恋なんて早いと思うがなぁ…。女の子ってマセてるなぁ…」
まだいまいち状況がつかめないうえ家族は皆妹に甘すぎる。
「とにかく、そういうことだから早くご飯食べて準備して!」
「はいはい…それにしても理研特区でクルージングなんて需要あるの?」
「いやいや、憲嗣驚け、隣国まで行くんだぞ」
「隣国!?まったく、2人ともこいつに甘すぎるって…」

 それにしても国境1つ越えるだけで同じ海に対するイメージが180度変わるのもおかしな話である。理研特区の海は鉄のスクラップが沈んでいるとは思えないくらい綺麗だし、多くの生き物が棲みついている。だとしたら俺たちはいずれ人々がこの海に進出する際障害とならないようにあえて海から遠ざけられている…?いや今はそんなことどうでもいい。
「…てっきりあの人に振られたショックで海なんて二度と見たくないとか言い出すかと思ったのに」
「あはは、お兄ちゃんには何でもお見通しだね。…でもあたしの狙い通り、やっぱりこんなに綺麗なもの嫌いになれないよ」
「狙い通り?」
「うん。自分で自分を試したの。今海を見たらどんな気持ちになるのかなーって思って」
「そんなことのために無茶を言ったのか…」
「でも理研特区の海岸から見るより何百倍も綺麗でしょ?」
「…まあ、確かに」

 
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登場人物紹介

麝香憲嗣

科学者の国理研特区にて違法研究が発覚し拘束されている囚人。数多のキメラを生み出すマッドサイエンティスト。

御門智華

麝香の古い知り合い。かつて(『蝶、燃ゆ』)は復讐のために動くロボットだったが今では違法研究を取り締まる捜査官に。

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