第4話

文字数 683文字

 
 
 この日ほど、仕事に忙しさを求めた事など無かったと思う。仕事に忙殺されたい──そうすれば、その間だけでも忘れられる。
 しかし週始めの緩い職場の雰囲気と、僕のメンタルがマイナスに相互し、何とも鬱屈した一日となってしまった。
 「帰りたい──帰りたくない──いや、帰りたい」
 なんだ、生理か?とにやけた同僚にからかわれるが、僕は冷笑を返してその場を収めた。因みにその同僚は女性だ。相変わらずステキな職場である。
 特に残業をする事も無く、定時に帰路についた。ただそのまま帰りたく無かったので、意味も無く駅の本屋をぶらついた。真冬なのに、例の有名怪談師のポスターが貼られていた。最近は真冬でも怪談ツアーを行うらしい。
 大好きな人だが、見ていると吐き気がした。
 
 今夜も雪がチラついていたが、積もる程ではなさそうだ。溶けた雪が、汚らしく歩道を彩る。何処かの子供が作ったのであろう、小さな雪だるまも半分以上崩れ落ち、その様は哀愁を通り越し、こちらを暗鬱とさせた。
 家が近くと、あの路地も近く。
 「見たくない見たくない。いや暗いから、きっと見えない見えない」
 などと呟きながら、自分を鼓舞して僕は夜道を歩く。ぽつんぽつん、と街灯が道を等間隔で照らすが、圧倒的に闇が多い。
 ──例の路地は、更に暗かった。
 しかし、唯一存在する街灯のその下に、地蔵はいた。紅い植木鉢を載せて。
 周囲が暗いので、余計に地蔵が浮き立つ。その様相は戦慄としか云いようがなかった。
 「馬鹿じゃないのか?馬鹿だろ馬鹿馬鹿馬鹿」
 僕はこの所業を行っている何者かを、ひたすら罵りながら、家に逃げ帰ったのだった。
 
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