9月第1金曜日 塩

文字数 699文字

「二度と来るんじゃねぇ。べらんめぇ!」

仕事終わりに商店街をぶらぶらしていると、
斜め前に見えているたこ焼き屋さんから大将のどなり声が聞こえてきた。
イートインのできるタイプのたこ焼き屋さんで、なかなかおいしいお店だ。

ドアをがらりと開け、スーツの人間が飛び出してきて、飛ぶように飛んで行った。
マジックアワーの空に溶けるように消えていく。

空の色に見惚れながら足を進めていると、右側からばさっと白い粉が飛んできた。

右半身に粉を感じながら、ゆっくり右側を向く。
開いたドアの向こう側に一斗缶を両手に構えた大将がいた。

しばし無言で見つめ合う。
真っ赤だった顔がみるみる青くなっていく。

「す、すまねぇ。さっきのやつに塩を撒いたつもりが、嬢ちゃんにかかっちまった。」

缶を下ろすと、へこへこと頭を下げてくれた。

なるほど塩か。許す。
これが小麦粉だったら許せなかったかもしれない。

「やぁ。最近バスソルトにはまってまして。どのみちお風呂で塩漬けになるとこなので、気にせんといてください。」

右側の塩たちを左手で払いながら、大将に気を遣わせないようスマートな返答をした。

大将はなおも恐縮した様子で、お詫びにとたこ焼きをふたパック持たせてくれた。ありがたや。
嬉しさのあまりスキップしながら家路を辿る。

帰宅後に玄関で鏡を確認したが、塩はほとんど残っていなかった。
スキップしながら帰ったからかな。

お風呂上がりにたこ焼きを頂く。おいしい。

パックの中でたこ焼きは右側に寄ってしまっていた。
スキップしながら帰ったからかな。

そういえば。ここ一週間くらい悩まされていた頭痛と肩こりと悪寒がすっかり消えている。
これもスキップしながら帰ったからかしら。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み