8月第5木曜日 来客

文字数 737文字

夜。眠りに着こうと布団の中でうとうとしていると、窓の外でカツンと音がした。

風はそんなに強くなさそうだけど、窓にどんぐりでも当たったのかしら。

ぼんやりそんなことを考えながら入眠--

カツンカツン

今度は2連続で音が聞こえた。
2どんぐり。近くにリスでもいるのだろうか。

少し気になり身を起こす。

カツンカツン

音がまた聞こえた。
カーテンをそっとめくり隙間から外を覗く。
窓の真ん中の方にうすぼんやりと光る人間の右手があった。

橈骨尺骨と言うのか、手から肘の関節の手前くらいまでが宙に浮いている。
そこから奥は闇に溶けるように暗く、目を凝らしても見えなかった。

手はこちらに気がつくとひらひらと手を振ってきた。

そっと手を振り返す。

それに気を良くしたのか実は関係ないのか、ぺたりぺたりと窓ガラスを触りながら、私の目の前の位置まで移動してきた。

よくよく見ると手は私の手よりもひとまわりほど小さかった。
子どもの手ではなく、大人の手を8割ぐらいに縮小した感じ。

カツンカツン

中に入りたそうにノックをされる。
知らない人を家に招き入れるのは恐ろしくてできないが、手ならいいかと思い10センチほど窓を開ける。

すいませんね、とでも言うように手刀を切りながら手が入ってきた。

歓迎の握手。
特に何を話すでもなかったが、指相撲をしたりジャンケンをしたり、色々な手遊びをした。

2時間ほどそうして過ごすと、手は外に出して欲しそうに窓を数回ノックした。

10センチほど窓を開けてあげると、やはり手刀を切りながら手は外に出ていった。

窓越しに手を振る。
ばいばい。

遠ざかる手を見えなくなるまで見送ったあと、満足感に包まれながら布団にもぐりこんだ。

ぐっすり眠った翌朝、玄関の外にはどんぐりが数個散らばっていた。
手からのプレゼントだと思った。
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