9月第1日曜日 とんかつ

文字数 547文字

夕飯にとんかつを食べに行った。
老舗の3500円。これは幸せの味。

かの文豪が “I love you.” を「月がきれいですね」と訳したと言われている。Ohロマンチック!

とんかつ定食を二定食はさんだ向かいの席の恋人とそんな話で盛り上がりつつ、とんかつや極細キャベツに勤しんだ。

「とんかつ、美味しいね」
心を込めて伝えた。

「そうだね、美味しいね」
優しい笑顔が返ってくる。この笑顔が好き。

「かの文豪がアイラブユーを月がきれいですねって訳したって言われているらしいね」

「らしいね」
小首を傾げつつこちらを見つめてくれる。
あざとかわいいかよ。

「とんかつ、美味しいね」
伝われ。

「そうだね、美味しいね」
まばたき2回の後、一拍おいて優しい笑顔が返ってくる。大好き。

「かの文豪がアイラブユーを月がきれいですねって訳したって言われてるらしいね」

「うん?あれ。デジャヴ?」

「とんかつ、美味しいね」
伝われアイラブユー。

しばしの沈黙。キャベツをしゃくしゃくと咀嚼する音が響いた。
お箸を箸置きにそっと乗せる。

腕を組みゆっくりと目をつぶり顔を上に向ける。
たっぷり10秒ほど。
何かに気づいたようにあっと小さな声を上げた。

にっこりとこちらを見る恋人。

「お前はわかってない」
まったく。
笑っているのに笑っていない器用なところも愛しいぜ。

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