8月第5金曜日 ざわっち

文字数 968文字

職場の隣の席はざわっちだ。
年次の少し離れた後輩で、ざわっちの明るく闊達な人柄があって仲良くやらせていただいている。

ざわっちは会社に来る日と来ない日がある。
私にもあるからおあいこだね。

会社に来ない日は何をやっているのかと以前聞いたが、家で仕事をしているとのことだった。
私も会社に来ない平日はたいてい家で仕事をしている。おんなじだね。

職場のビルに到着し、改札っぽい入り口を社員証でタッチアンドゴーしてエレベーターに乗る。

到着した地下の5階が我が職場だ。

ドアの横の四角いところに社員証をタッチアンドゴーしてドアのロックを解除すると入室する。

出社後、席に着くまでの間に同僚とすれ違った時は、目は合わせずにもごもごと呪文を唱え合うのが社内のしきたりだ。
呪文のバリエーションは「あいまーす」や「ざまーす」等がある。

私も人とすれ違った数だけ「よざたーす」と呪いをかけながら歩いた。

席に着き、仕事用の光るデバイスをいそいそと準備する。
デバイスは長方形の板を2つ貝のように合わせた形状で大学ノートをひとまわり大きくしたようなサイズだ。
内側の片面が光るようになっていて、もう片面には四角いボタンがびっしり並んでいる。

びっしりボタンの方を自分の側にしてデスクに配置し、光る側をデスクと70度くらいに起こす。デバイスのスイッチを入れたら準備が完了する。

左後ろから「はよーっす!」と元気のいい挨拶が聞こえてきた。ざわっちだ。

「おはよう。」
「おはようございます。うわ。先輩、顔色すごい青いっすけど大丈夫です?」
「あれ。そんなに顔色悪い?」
「はい。ひどいっす。」

「昨日夜中に来客あって、ちょっと寝不足のせいかな。」
「夜中に。仲良い人なんすか?」
「いやー。人というか、初対面の右手。」

ざわっちはぱちくりとまばたきを2回した。

「右手…それは。右手みたいな顔した人とかそういう?」
「いやいや。そんなわけのわからない例えはしないよ。」

昨晩窓の外に人間の右手が宙に浮いていたこと、そのまま右手を招き入れて交流をはかったことを話した。

「えぇー…まぁまぁのホラーじゃないっすか。」
「怖いって感じじゃなかったけどなぁ。」
「まー。体調悪くないなら、今夜はぐっすり寝てください。」
「ありがとう。そうするよ。」

寝不足のせいで頭が重たいし肩もすごい凝ってるし寒気もする。
今夜は早めに休もう。
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