【〆切3日前】靄(もや)の中にいる人は

文字数 1,143文字

【水曜日】文芸部 設立申請期日まで、あと3日

ーーー放課後の図書室ーーー
(俺は書ける子だとちょっとだけ思っていたが、錯覚だった。

お風呂で10秒潜れる子が"太平洋を泳いで横断できる"と思っちゃうのと同レベルだな)
(原先輩に提出する小説が書けない。内容は、"原先輩と文芸部できて楽しい"な話で決まっている。

執筆のために高校の年間行事を調べた。他校の文芸部の活動もネットで調べた)
(調べたのに……。場面や台詞は靄(もや)のようにしか浮かばない。

原先輩と文学少女が動き出さない。もやもや)
もしもしー?
!すみません、貸出ですか…って、星野さんか
お久しぶり。勧誘のチラシを作り直したから、置き換えに来たよ。

お!思ったよりチラシ減っているね。

図書室と文芸部の相性は良いのかな
期待させて悪いんだけど。

俺が貸出の本に挟んで渡しているから、その分が余計に減っているかな。
気にしていてくれんだ。ありがとう。
今日は日野さんは一緒じゃないの?
ミライはバレー部。

仮入部期間中、ずっと私に付き合わせるわけにも行かないからね
そうだ!必要な部員は、仮入部の人をあわせたら駄目なの?
悪知恵だねー。

私も思いついて先生に聞いたんだけど、駄目だって。
そうか……
……。今年は文芸部ができなくてもいいかなって思うの
チャンスはまた来年もある!

だからね。内山君が思い悩む必要なんてないんだよ
俺、そんな顔してた?
”この時限爆弾がついた首輪を解除するには、犯人を説得するだけの傑作を書くしかねぇ”て顔してた
え、エスパーなの?
ふふっ…

だいたいの悩み事には、時間制限があって、解決するためにすべきことがあるでしょ?

そこを押さえれば、当たらずとも遠からずにはなるんだよ。
エスパーではなくて占い師だな
でも、内山君がエスパーと疑うくらいには真に迫っていたのかな。

時限爆弾付き首輪はないとすると、傑作を書こうとしている?
……その通りですよ。名探偵さん。
そっか、そっかー。若い作家の芽が息吹いちゃったか。

来年の文芸部設立の希望が出来たね
私がいて。内山君がいて。あと一人は後輩かな。

狭い部室で時間と感情を共有する三人。

内山君が書いた傑作を、私が微笑ましく読んで。

後輩に駄目だしされている内山君を、私が微笑ましく見つめるの。
そうか…。俺がいるのか
私はいてほしいけどな。

こちらの爆弾のタイムリミットは、来年まで延びたからゆっくり考えておいてよ
じゃぁ、チラシの置き換え終わっていないから行くね
 


ーーーーーー

(俺が小説を書けない理由。

原先輩がいる文芸部が想像できない理由。

きっと、そこに俺がいるのかが曖昧だからだ)
(今年を諦めれば、今の創作の産みの苦しみからも解放される。

でも、来年には原先輩は卒業している)
(俺が居たい文芸部があるのなら、そこには誰が居るのだろう)
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登場人物紹介

@内山 喜春(キハル)

及川さんに恋する高校1年の文芸部。
声色で人の恋心がわかるという能力を持っている。
*淡い紅色は、恋心の色。
*薄い青色は、嫌悪の色。
*薄い黄色は、どちらでもない。

@及川さん

内山君のクラスメイト。

@星野 夢子

文芸部仲間。
内山君と同学年だが、クラスは別。
だったけど、2年生のクラス替えで同クラスになりました。

@石川 タツ

内山君のクラスメイト。
神崎さんのことが好きらしい。

@神崎さん

モブ女。内山君のクラスメイト。

@日野 未来(ミライ)

星野さんの幼馴染。理数科なので普通科の星野さんとは別クラス。
自称、好きな人ができない性分だけど……

@原 悟(さとる)
内山君の2学年上の文芸部の先輩。
中学生の頃のペンネームは去虎。

@早瀬 樹里(ジュリ)

自分のことをジュリと呼ぶ、内山君の一学年下の文芸部員。
星野さんとは、創作投稿サイトで友達であり、星野さんのことを敬愛している。

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