第3話
文字数 1,446文字
あんのじょう、人がいないところに来るのを待っていたかのように、三太とねねの後ろで声がした。
「おい、お前ら。お手々つないで、どこへ行く」
重なって声がひびく。
ねねが、はっとして手をひっこめた。
ゆっくりふりむいた三太は、思わず目をこすった。
「なんだ? お前たち」
道をふさぐように立つ三人とも、同じ顔だ。着物も帯も、はおりも、そっくり同じ。いや、よく見ると、はおりのひもだけが、色ちがいだ。
「なんだとはなんだ丁稚」と金色のはおりひも。
「なんだ丁稚」と銀色のはおりひも。
「丁稚」と銅色のはおりひも。
三人とも、背は三太より頭ひとつ大きいが、前髪を落としていないから、年は同じくらいだろう。
ぽかんとしたままの三太のよこで、ねねがさけんだ。
「金、銀、銅!」
「なんですか、それは?」ふりむいた三太に、ねねがこたえた。
「火消し同心のとこの三つ子よ。金之介、銀之介、銅之介。お習字の手習いでいっしょなんだけど、いつもいじわるしてくるのよ」
ねねの言葉の終わらぬうちに、三人のうちの一人が、手を伸ばした。ねねはさっとかわしたが、さくらのかんざしをとられてしまった。
「こんなひらひらなの、ぜんぜん、にあってないぞ」と金之介。
「ぜんぜん、にあってないぞ」と銀之介。
「にあってないぞ」と銅の介。
そのあいだにも、さくらのかんざしが、三人のあいだをいったりきたりしている。
「かえしてってば!」
伸ばしたねねの手は、あと少しでとどかない。
とりかえした、と思ったとたん、かんざしは落ちて、金之介の足がふみつけた。
「ああ……」
ねねがしゃがみこむ。
ごくうすい絹でできたさくらのかんざしは、むざんにも、ぺしゃんこにつぶれてしまった。
「お嬢さまにあやまれ!」
三太はさけんだ。こちらは丁稚、相手は同心……さむらいの息子だ。なんとかやりすごそうとがまんしていたが、もうげんかいだ。
「なんだと?」
三つ子が同時にこたえた。金之介が、板べいにたてかけてあった、つっかい棒を手にもって、ぶんぶんふりまわす。あやまる気はまるでなさそうだ。
三太は順番に金、銀、銅とにらみつけた。
「ふん。見た通りだな。体がでかくて、力はあっても、頭はからっぽ」
「なにおう?」
また三人とも同時にこたえた。
三太は、金之介との距離を目ではかった。
「一人ずつしゃべれよ」
怒りで顔を赤くした金之介が前に出た。
「おい! 丁稚。丁稚のくせにえらそうだぞ!」
言われて、三太は、はっとした。つい、丁稚を演じているのを忘れていた。あわてて、中腰になり、手をもみあわせ、笑顔をうかべた。
「へ、へい。おいらは、しがない丁稚でございます」
「ば、ばかにしてるのか!」
金之介が、棒を大きくふり上げた。
「おやめください。おさむらいさま」
そう言いながら三太はさっと棒をかわした。
手に持ったふろしきづつみをたてに、右に左によける。このまま逃げつづけることもできる。どうしようか、まよった一しゅん、金之介のふりおろした棒が、ふろしきづつみをたたきおとした。
ふろしきづつみをひろった三太は、ねねと顔を見合わせた。
「お嬢さま。丁稚は、おとどけものをしっかり届けなくちゃなりませんよね?」
「え、ええそうね」
「大事なおとどけものをだめにされたって番所にとどけたら、いくらおさむらいのおぼっちゃまでも、しかられますよね?」
ねねは、ちらりと金銀銅を見て、うなずいた。
「そうね。そうよ」
三太は、ふろしきづつみを、ねねにあずけた。
「すんません。お嬢さま、持っててください」
「おい、お前ら。お手々つないで、どこへ行く」
重なって声がひびく。
ねねが、はっとして手をひっこめた。
ゆっくりふりむいた三太は、思わず目をこすった。
「なんだ? お前たち」
道をふさぐように立つ三人とも、同じ顔だ。着物も帯も、はおりも、そっくり同じ。いや、よく見ると、はおりのひもだけが、色ちがいだ。
「なんだとはなんだ丁稚」と金色のはおりひも。
「なんだ丁稚」と銀色のはおりひも。
「丁稚」と銅色のはおりひも。
三人とも、背は三太より頭ひとつ大きいが、前髪を落としていないから、年は同じくらいだろう。
ぽかんとしたままの三太のよこで、ねねがさけんだ。
「金、銀、銅!」
「なんですか、それは?」ふりむいた三太に、ねねがこたえた。
「火消し同心のとこの三つ子よ。金之介、銀之介、銅之介。お習字の手習いでいっしょなんだけど、いつもいじわるしてくるのよ」
ねねの言葉の終わらぬうちに、三人のうちの一人が、手を伸ばした。ねねはさっとかわしたが、さくらのかんざしをとられてしまった。
「こんなひらひらなの、ぜんぜん、にあってないぞ」と金之介。
「ぜんぜん、にあってないぞ」と銀之介。
「にあってないぞ」と銅の介。
そのあいだにも、さくらのかんざしが、三人のあいだをいったりきたりしている。
「かえしてってば!」
伸ばしたねねの手は、あと少しでとどかない。
とりかえした、と思ったとたん、かんざしは落ちて、金之介の足がふみつけた。
「ああ……」
ねねがしゃがみこむ。
ごくうすい絹でできたさくらのかんざしは、むざんにも、ぺしゃんこにつぶれてしまった。
「お嬢さまにあやまれ!」
三太はさけんだ。こちらは丁稚、相手は同心……さむらいの息子だ。なんとかやりすごそうとがまんしていたが、もうげんかいだ。
「なんだと?」
三つ子が同時にこたえた。金之介が、板べいにたてかけてあった、つっかい棒を手にもって、ぶんぶんふりまわす。あやまる気はまるでなさそうだ。
三太は順番に金、銀、銅とにらみつけた。
「ふん。見た通りだな。体がでかくて、力はあっても、頭はからっぽ」
「なにおう?」
また三人とも同時にこたえた。
三太は、金之介との距離を目ではかった。
「一人ずつしゃべれよ」
怒りで顔を赤くした金之介が前に出た。
「おい! 丁稚。丁稚のくせにえらそうだぞ!」
言われて、三太は、はっとした。つい、丁稚を演じているのを忘れていた。あわてて、中腰になり、手をもみあわせ、笑顔をうかべた。
「へ、へい。おいらは、しがない丁稚でございます」
「ば、ばかにしてるのか!」
金之介が、棒を大きくふり上げた。
「おやめください。おさむらいさま」
そう言いながら三太はさっと棒をかわした。
手に持ったふろしきづつみをたてに、右に左によける。このまま逃げつづけることもできる。どうしようか、まよった一しゅん、金之介のふりおろした棒が、ふろしきづつみをたたきおとした。
ふろしきづつみをひろった三太は、ねねと顔を見合わせた。
「お嬢さま。丁稚は、おとどけものをしっかり届けなくちゃなりませんよね?」
「え、ええそうね」
「大事なおとどけものをだめにされたって番所にとどけたら、いくらおさむらいのおぼっちゃまでも、しかられますよね?」
ねねは、ちらりと金銀銅を見て、うなずいた。
「そうね。そうよ」
三太は、ふろしきづつみを、ねねにあずけた。
「すんません。お嬢さま、持っててください」