第4話 調査報告(2)

文字数 1,115文字

「二班が見つけたのは馬よりも小柄な動物の足跡でした。キツネモドキ、オオカミモドキとは明らかに異なる形で、こちらも真っ直ぐにアーシャ湖へと続いていたそうです。四班が見つけたのは南へ向かう帰りの足跡、その持ち主は成人男性と、おそらくは子どもではないかという報告が届いています」

「子ども、ですか?」
「それはまた妙ですな」
 サザミたちがざわめく。エミリオは無言のまま目を細めた。
「以上のことから昨日、正体不明の複数名がアーシャ湖へとやってきたのは間違いありません。……監視所から見た当時の様子をもう一度聞かせていただいてよろしいですか?」

 トビアが促すと、顔を見合わせた三人の内の一人が代表して口を開いた。
「トーヴァの監視所からアーシャ湖の異変に気づいたのは、一昨日の昼のことです」
 白髪混じりの灰色髪を背中で括った三十半ばほどの男だった。ここ数日の騒動で目の下にはくっきりと(くま)が浮き上がっているが、発する言葉は落ち着きがあり聞き取りやすいものだった。
「サリエートがアーシャ湖から飛び立つと、集まっていた招来獣(しょうらいじゅう)たちが湖外に向けて攻撃の姿勢を見せました。直後、カルバラ側から大規模な氷結攻撃が発動。おそらくは四精術(しせいじゅつ)かと思われます」
 四精術、という言葉にサザミが眉を寄せる。術師は続けた。
「ガロア様に第一報を送ったのはこの時です。サリエートは警戒した様子でしたが、ひとまずはアーシャ湖へ戻りました」
「それが一昨日(おととい)のこと、と」
「はい。翌日──つまり昨日ですが、日の出と共に招来獣たちの様子が再度慌ただしくなりました。湖を覆う(もや)が一瞬かき消された後、白い竜のようなものがサリエートと交戦。以後、」
「白い竜」

 不意に弾かれたような声が上がる。術師たちの視線が一斉にエミリオに向いた。
「ああ、いえ。遮ってしまってすみません」
 エミリオが頭を下げると、トビアが改めて術師に目をやった。
「続けてください、カルロ」
「……以後は、アーシャ湖から招来獣の気配が完全に消失しました。そこで伝令用招来獣に第二報の文を託し、トビア様が合流された夕刻まで監視を続けた次第です」

 術師が話し終えると、眉間に深いしわを寄せたサザミがトビアに向けて言った。
「トビア様。カルバラからの攻撃というのはもしや、カルア・マグダの四精術師隊(しせいじゅつしたい)では?」
「その可能性も否定できませんが、……どう思いますか?」

 トビアが三人の術師たちに意見を求めると、彼らはおそらく否と答えた。
「攻撃の規模はたしかに四精術師隊に相当するものと思われます。しかし、アーシャ湖に数百、いえ数十人であっても進軍があれば気づくはずです。ここに就いた際、北への注意も怠らぬようにとガロア様からも言われておりましたので」

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登場人物紹介

名前 : トレンスキー・エル・デア・ルートポート

誕生日: 10月8日

誕生花: 金木犀(花言葉は謙遜、真実、陶酔)

好物 : 酒類、特に赤ワイン


 クーウェルコルトの若き女四精術師。お人好しで少しうっかり者。弟子の前ではやや格好つけていたが、最近では肩の力が抜けて素の状態を出すようになったらしい。

 普段は彼女の決定で行く先が決まることが多いが、今回は飛びだしていったラウエルを追ってアルニア領カジャの町へと向かう。

名前 :アンティ・アレット

誕生日:2月23日

誕生花:ポピー(花言葉は忘却、想像力、恋の予感)

好物 :干した苺


 トレンスキーの弟子。ようやく師匠の誤解も解けて安心したらしい。大人しい性格は変わらないが、最近は周りの大人たち(?)に積極的に質問をしたりする好奇心旺盛な一面も見られる。

名前 :ハヴィク・ラウエル・イル・メルイーシャ

誕生日:7月2日

誕生花:クレマチス(花言葉は精神の美、旅人の喜び、策略)

好物 :アップルパイ


 招来術師シウル・フィーリス・イル・メルイーシャの創った招来獣。一行の荷物持ちや話を聞く係になりがち。今回は亡き主の名を騙る人物がいるとのことで単身アルニア領へと向かった。基本的に温厚で清廉なのは、亡き主の意向を汲んでいるかららしい。

名前 :ゲルディーク・イアン・リレッダ

誕生日:9月18日

誕生花:アザミ(花言葉は独立、報復、人間嫌い)

好物 :ハーブティー


 カルア・マグダから来た隻眼の四精術師。気になる人間に対しては何だかんだ言って世話を焼きがち。情報収集から薬の調合などのサポートが得意。今回も一行と共にアルニア領へと旅することになる。

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