第33話「パンドラボックス」

文字数 4,632文字

■■【黒箱城】寝室■■



 客人用の寝室。

 一人で使うにはだだっ広い部屋の中、ふかふかのベッドの上に腰かけて、僕は窓のない壁を見つめている。


「【銀狼】……勇者ハーミットねぇ」


 考えているのは、純が客間で最後に云っていたことについて。


「僕と純と……仮にイドの手を借りたとして、三人がかりでもキツイ相手だよなー。あいつ、『女神イディア』の権能はもう持っていないって話だし」


 とすると、やはりシアさんの『魔力詰まり』の快癒が現行最優先の課題ということになるだろうか。

 彼女の圧倒的な制圧力、騎士としての戦闘経験は間違いなく今後の僕たちに必要なものとなってくるだろう。

 なにより、本人の強い意志に応えてあげたいという気持ちもある。
 

「ふむ、【勇者】というのは複数人存在するのだな。純というのはたしか――クルオスとかいうあれか。あの蜘蛛女でも持て余すというのであれば、そのハーミットとやら、只者ではないと見える」

「そうなんですよねぇ。正直、僕は純の実力の全貌を知っているわけではないんですけど、【銀狼】の強さなら見たことがあります。【勇者】として同じ括りにされていることが卑屈に思えてくるくらい化け物じみているというかなんというか……」

「ワッハッハ、随分と後ろ向きだの」


 いつの間にか眼前に立っていたその青髪の青年は、おもむろに僕の隣に座って、そのまま足を組む。

 近寄ってきて分かったが、彼はかなり上背があるようだ。こうして並んで座っていても、顔を眺めるために見上げるような形となる。

 彼の一連の動作を眺めている間、どこか時間がゆっくりと流れていくように感じた。

 なにやら過去に見覚えのあるような仕草だと思ったら、そういえば、これはシアさんの振る舞いに近いのだと気付いた。

 木綿の服に身を包んでいる割に、一挙手一投足にいちいち気品があるというか、おそらく彼は、騎士や貴族のように気位の高い立場にある人なんだろうと僕は思った。


「『女神イディア』というのはそんなにも戦力として期待できない者なのか? もしそれが、余が考えているほうの『イディア』であれば、彼女は単独でこの国最強の戦力とまで云われていた実力者だったはずだが」

「本人が云うには『容れ物』の問題なんだそうですよ。今のイドの姿は【女神の意志】の()()として与えられた仮の身体だとかで、女神の力を扱うどころか、生前の彼女にさえ遠く及ばないスペックなんだそうです」


 本人曰く、『引き継いでいるのは、知恵と知識と経験と、あと可愛さくらいのもんですかね』とのことだ。

 記憶に関しては一部混濁している部分があり、明確に思い出せるのは彼女がフテルシア島に移り住んだ前後まで。

 彼女自身は、おそらくその時期に自分と【女神の意志】(あるいはそう呼ばれているもの)の間に接触があったのだろうと推測している。
 

「なるほど、その口振りからするに、やはり我が妹のほうで合っていたか。ふーむ、それはたしかに難儀だのう。……して、貴公、イディアとはどういった関係だ?」

「恋仲ですね。病める時も健やかなる時も富める時も貧しき時も、愛慕と敬愛と慈愛を真心に誓い合った関係です」

「えっ!? それはまことか!?」


 彼は見るからに目を丸くして驚嘆の声を上げた。

 そのまま、まじまじと僕の横っ面を覗き込んでくる。

 こうされると反対に彼の表情もよく見えた。

 彼に対する僕の印象は『無邪気』だ。

 堀の深い顔立ちにきりっと尖った眉――意志の強さが垣間見えるその面持ちと、先ほどからの落ち着きのある大人びた振る舞いは、僕の印象とは正反対のものであるはずだったが、なんというか……表情が特徴的なのだ。

 彼はこの部屋に現れてからずっと笑っている。

 まるで自分の目の前で起こっていることを、あるいはこれから起こるかもしれないことを、いつだって心から楽しんでいるような。

 それは、悩むことを知らない無垢な子どものような顔だと――僕は思った。

 そして、ついでに生前の僕なら『自分とは正反対だ』と思っただろうな、なんてことも頭をよぎった。
 
 
「ほほー、あのじゃじゃ馬がなァ。蘇ってより、何故このような憂き目にばかり遭うのかと嘆いておったが、こうして生きながらえてみるものだ」
 
「……あのう、失礼を承知でお尋ねするんですが――あなた何者です?」

「余か? 余は()()()()()()()()()()()()()】――イドラ・イデイン・プロトスだ」

「………………………………へー」


 へー。

 なるほど。

 なるほどなあ。


「………………………………」
 

 うわー。

 なんだろこの状況。

 僕、なんかやっちゃったのかなあ。

 あまりにも意味不明過ぎたからか、いまいち感情が追い付いてこない。

 
「あのう、魔王様がなんでこんなとこに?」


 こんな心中穏やかでないはずの出来事を前にして、僕が一番驚いたのは、自分自身の声色が普段と全く変わらなかったことだ。
 
 頭の中身が混沌としている分、変に整えられた状況より、こういう訳の分からない場面のほうが存外気楽なのかもしれない。

 目の前の青年の言葉を待ちながら、僕はぼんやりとそんなことを考えていた。
 

「ぬ? あの蜘蛛女から何も聞いておらぬのか?」

「ええ、聞いてません。僕のことは『仲間に大事なことを何も聞かされてないヤツ』だと思ってください」

「なんぞそれ」

「僕も同じ気持ちです」

「うーむ、そういうことであれば事情を話すが……」

 
 イドラさんは顎をさすりながら語り出した。

 
「余はこの世界に二度目の生を受けたのちに、【魔王】としての責務を全部放ったらかして、フテルシアで悠々自適に暮らしておったのだがな。ある日、そこに突然【愚勇】とかいう【勇者】が現れて、余のユートピアを大蹂躙。余が殿(しんがり)を務めたことで、眷属たちはどうにか散り散りに逃げ延びさせたものの、肝心の余自身は撤退中に『幼き騎士団長』と赤髪の娘(蜘蛛女)に横槍を入れられ、いつの間にやらこの場所で袋のネズミというわけだ」

「……『袋のネズミ』? どういうことです? 同じ建物の中にいるのに、イドラさんはまだ純たちに捕まっていないってことですか……?」

「そういうことだ。この建造物――【魔王城】の内部はちょっとした亜空間になっておってな。突如として脳裏に浮かんできた心の声に従い、余はここに逃げ込んできたのだが……、この城の中では、()()()()()()()()()()()()()()()が存在しうる。それで同じ建物の中、今日まで延々といたちごっこを繰り返しておるのだ」

 
 そう聞いて僕はやっと得心が行く。

 そりゃあ純が【魔王】のことについて濁し続けるわけだ。

 自分が普通に寝泊まりしたことのある場所にそんなとんでもないトピックがあるなんて知ったら、多分僕の性質上他のことが何も手につかなくなる。

 だから、ある程度の決着がつくまでは伝えることを保留すべきだと考えたのだろう。

 実際、僕の頭の中から【銀狼】についての話はどこかへ吹き飛んでしまっていた。
 
 
「ぬう、本来はこの場所もそもそも入ること自体が難しいというか、許された者しか立ち入れないはずで、だから余もここに辿り着きさえすれば、あとはどうとでもなると踏んでいたのだがな……。彼奴(きゃつ)ら悠々と入って来おったどころか、何食わぬ顔で暮らし始めて、しっかりリノベーションまでしおった。羨ましい……余もこっちに住みたい……」

「えっと、それはなんというか同情の余地しかない話ではあるんですけど、そうすると僕のところへ現れた理由はなんなんですか……? 一応僕もフェレライ大公陣営というか……敵の前にみすみす姿を晒していることになってると思うんですが……」

「いやなに、久々の来訪者の言動に聞き耳を立てていたら、懐かしい名が聞こえたのでな。退屈な毎日にしびれを切らしてうっかり出てきてしまった」

「うっかりって……」

「貴公、そんなに謀略に優れているようにも見えないし、万が一ガチバトルになったら余が余裕で勝つかなって」

「…………」


 露骨にナメられていた。

 いや、多分その認識は正解なんだろうけど。

 なんというか、オーラだけで手を出しちゃいけない相手なのが分かる。

 特に、さりげなくこの間合いに詰められているのがなによりマズい。

 
「……会いたいですか?」


 しかし、実力差があろうとなかろうと、僕は彼に手を出す気はなかった。
 
 それは、以前、イドから『()についての話』を聞いていたから、というのが大きな理由だったかもしれない。
 

「ぬ、急にどうした。なんの話だ?」

「イディアです。妹なんでしょう? 多分、さっきの話で云うと、あなたはここから出た瞬間、純に捕まっちゃうんでしょうから、自分から彼女のところに足を運ぶことはできない。だから、僕が連れてきましょうかって話です」

「…………ほう」

「……なんですか、その含みのある顔」

「いや、随分変わった男だと思ってな。卑屈そうな顔をしている割に、どこかにはっきりと芯を持っておるというか……でなければそんな突飛な提案はできぬ」

「褒めているのか貶しているのか分からないセリフですね」

「いや、褒めておるのよ。……貴公は、我が母君に似ている。なるほど、イディアのやつが慕うわけだ」

 
 それから少し唸ってイドラさんは僕の問いに返答した。


「ありがたい申し出なのだが、今はまだその時ではない。【魔王】という立場は難しくてな、軽率に会えば、イディアの身に災難が降りかかるかもしれぬ」

「そう……ですか」

「あと、これは差し出がましい願いなのだが、できれば余と会ったことはあの元騎士長やクルオスとやらにも秘密にしてほしい。余はまだ自身の立場を測りかねておってな。もし承服してくれるのであれば、代わりに一つ手助けをしてやらないでもない」

「手助け? 一体なんのです?」

「東に【魔女の森】と呼ばれる針葉樹林があるだろう。その一番背の高い樹の下に青い脈の張った奇妙な葉が落ちていることがある。それを持って来れば、あの女騎士の『病気』とやらを治せる薬が作れるかもしれん」

「それ……は……」


 思いもよらぬ提案に、僕は数瞬思考停止する。
 

「……だからといって、余のことを黙っていることなどできぬ――か? それならば、別に構わぬ。貴公と会っていたと話をされたところで、余にとってさして状況は変わらぬからな。ただ、その場合、二度と貴公の前に余が現れることはないだろう」

「…………」


 僕は考える。

 考えて、そして――考えるまでもないことだという結論に至った。

 
「その話、了承します」

「ほう。意外と返答が早かったな。クルオスは貴公の親類だと漏れ聞いたが、それでも従者の身を優先すると?」

「……いえ、それぞれの気持ちに応える選択をしたまでです。シアさんは今この瞬間だって一刻も早く、僕の役に立てるようになりたいと思ってくれているでしょうし、純は純で、この件を僕に話さなかった以上、『自分とフェレライ大公だけでなんとかする』と考えているはずです。僕は彼女たちに期待して、それから信頼しています」

「ワッハッハ、そういうことであったか。ならば、余もますますこの隠身の日々に気を引き締めなければなるまい」

 
 イドラさんはベッドから立ち上がって、扉の方へ歩いていく。

 僕はこの時、どれだけ味のある表情をしていただろう。
 
 彼は最後に振り返って、とても楽しそうに笑いながら、云った。


「――息災でな、勇者ターナカ。また会う時を楽しみにしておるぞ」



▲▲~了~▲▲
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登場人物紹介

ユウ・ターナカ/田中 勇愛


【操奇】の勇者。その奇抜な発想と後先を省みない行動力、そして意外性によって、日々イディアニウムの人間たちに奇異の視線を投げかけられながら生活している。【魔王】の打倒という【勇者】の使命にさえ興味がなく、その場その場のノリに身をやつすその姿勢は、周囲から『目前主義』と評されている。


前世では自身の『症状』に対する苦悩の末、命を落とすことになったが、今生ではその誠実さ・実直さにより、人間関係に恵まれた。そして現在はとある『目的』のため、仲間たちとともに行動している。


イディアニウムに存在する十人の勇者の中で、「最も対集団戦・耐久戦に特化した勇者」と云われており、受けた攻撃の数だけ自身を強化する固有スキル【ラウンドアバウト】や、その副産物である特異属性『星属性』の魔法を駆使して戦う。


自分をこの世界に召喚した女神イディアとは、現在恋仲である。

イディア・イデイン・プロトス


勇者ターナカをイディアニウムに召喚した【女神】。数百年前に【現代魔法】や【ステータス】という概念を開発した張本人であり、現在は【女神の意志】の『端末』として転生した身体で第二の人生を謳歌している。


『【勇者】の選定』という自身の『端末』としての使命を果たし終えたことから、他の勇者に対する公平性をとっくに放棄しており、ターナカに対してのみ助言を行ったり、それどころかパーティを組んでみたりするなど、何かにつけて彼に肩入れしている。

足繫くターナカの拠点に通い続けていたイディアは、やがて彼の大らかな人柄を慕うようになり、いつの間にやら二人は恋人関係を結んでいた。


生前(前世)の彼女は【古代魔法】の使い手たちであるイデイン族をたった一人で制圧するほどの実力者であったが、転生後は自身本来のイデイン族としての肉体を失ったことから、その出力も当時に比べて大きく劣ったものとなっている。使命達成後に【女神】としての権能もほぼ失っており、残っているのは限定的な【空間移動】などほんの一部である。


【魔王】や【魔族】と勘違いされないよう、普段はその特徴的な青い頭髪を隠して生活しており、混乱を防ぐために、できるだけ素性も偽るようにしている。(その際、『イド(ターナカが付けた愛称)』という名前を好んで使っている)

シア・フェレライ


勇者ターナカの従者。【悪食大公】ヘルド・フェレライの実娘であり、以前は一人の女騎士として活躍していたが、『ある出来事』によって【魔力詰まり】を発症したことをきっかけに前線を退いた。


その後、従者としてターナカに仕えるようになってからは、討伐など戦闘を伴う依頼の補助を行えない代わりに、事務処理や彼の身の回りの世話、うっかり気質のフォローをする役回りを背負っている。

当初こそ、その素行を訝しんでいたものの、不器用ながらもひたむきに生き、他人のために自身が傷付くことさえいとわないターナカの姿勢を見ているうち、やがて彼女は自分の主君の幸福をなによりも願うようになった。


【魔力詰まり】であることを度外視すれば、彼女は本来【千魔一剣】という剣術を扱うかなりの武闘派であり、その攻撃力に特化した必殺の一撃は耐久特化の【ステータス】を持つターナカを戦慄させるほどだった。その能力をターナカのために発揮できないことを彼女自身いつもむず痒く思っている。


元騎士らしく礼節を重んじる性格でありながらも、人当たりが非常に良く、笑いのツボが劇的に浅い。

ヒース・プロトス


イディアニウム国王ユーバ・プロトスの三男にして第三王子。【枝喰み川】での住民失踪事件について調査していた折、『水豹』に襲われたところを偶然通りがかった勇者ターナカによって救われる。


以降、命の恩人であるターナカのパトロンとして(半分面白いもの見たさで)、その活動を支援するようになるが、その援助の大半はことあるごとに問題を起こす彼の尻拭いである。それゆえにターナカにとってヒースは頭が上がらない存在であるが、同時に心の底ではよき理解者として兄貴分のように慕っている。


よくも悪くも捉えどころのない飄々とした性格で、いつの間にか王城を抜け出してはイディアニウムの各土地を転々と渡り歩いていることから、王都では『風来坊』と揶揄されている。

しかし、一方で、そのずば抜けた先見性や、王族という自身の立場を上手く利用(あるいは悪用)した立ち回りを知る身内からの評価は非常に高く、関わる機会の多いターナカも彼のことを『切れ者』であると認識している。


兄弟の中で唯一、長男のグレンとまともに口を利ける存在で、兄の裏での心労を推し量っては、さりげなく王城の外に連れ出して気晴らしに付き合っている。その甲斐もあってか第一王子として誰よりも固い意志を持つグレンが、彼の助言にだけはいつも素直に耳を貸しており、その辣腕を信頼して大きな仕事を手伝わせることも多い。

グレン・プロトス


イディアニウム国王ユーバ・プロトスの嫡男であり、次期国王候補の筆頭。


その冷酷な問題解決思考と王族代表としての厳格な態度から、敵味方問わず畏怖の対象とされている人物。

権力の象徴として嫌悪を向けられることもある一方で、彼のその冷徹さはイディアニウムを想うがゆえのものであり、常にその顔に鉄面皮を貼り付けているのも、その付け入られかねない内心――優しさを隠すためである。


自身の王族としての立場を誇りに思っており、たとえ自分がまさに救おうとする人々から誹りを受けることがあろうとも、その役目を全うし、信念を貫き通すだけの意志の強さを持っている。『誰からも理解されることが政治ではない』という独自の信条を持っており、その言葉の通りに日々行動しているが、それでもその『孤高』はただの一人の人間には至極耐え難いものであり、身内の人間の中で唯一気を許しているヒースに対してのみ、時折愚痴や弱音をこぼしている。


ヒースのツテで勇者ターナカと親交を結ぶようになるが、懇親会にしれっと参加していた【女神】の誘いに乗ってしまい、泥酔の末、普段は他人に見せることのない姿をターナカに晒してしまった。


以降、ターナカは彼のことを「中間管理職の苦労人」と評している。

ヘルド・フェレライ


元騎士団長であり、名誉公爵。その好事家ぶりからイディアニウム内で【悪食大公】という二つ名を付けられている。


かつて、娘であるシア・フェレライの【魔力詰まり】の治療法を探す旅の過程で、若返りの呪いにかかってしまい、現在見た目が少年の姿となっている。その結果として騎士団長の任を退くことになったものの、本人は「貴重な体験をした」とかえってこのことを喜んでおり、引退をきっかけに、かねてより目を付けていた【黒箱城】に移り住むなど『悪食』の名にし負う酔狂ぶりで日々を楽しんでいる。


趣味嗜好こそ他人の理解を得難いものではあるが、その分け隔てのない性格と人好きのする人柄は、一種のカリスマ性となり、人心掌握術と関係構築力において彼の右に出る者はいないとまで云われている。

彼の本領は他者に対するその観察眼と記憶力である。この能力は教育方面においても遺憾なく活用され、最終的に多方面からの厚い信頼を勝ち取った彼は、平民の出でありながら、騎士団長の任に就く快挙を達成することとなった。


家族関係について、妻は【黒箱城】に移り住むより前に病気で他界しており、子どもたちに対しても騎士としての心得と技術のみを教えてほとんど放任主義であった。しかし、関係が悪いということは一切なく、彼の行動の端々から愛情を受け取って育った子どもたちは、それぞれの道を修める中で父の名に恥じない人間となることを一つの行動原理として日々研鑽を積んでいる。

(ちなみにヘルドの姿が少年となってから、子どもたちは彼に対して、ちょっとしたマスコットのような扱いで接するようになったらしい)


シアが従者となったことをきっかけに勇者ターナカと知り合った。

ジュン・クルオス/黒瀬 純


【紅雲(あけぐも)】の異名を持つ勇者であり、前世でのターナカの従妹。


勇者ターナカがイディアニウムに召喚されたばかりのころ、そのことをどうやってか嗅ぎ付けた彼女がどこからともなく姿を現し、右も左も分からない彼にイディアニウムでの生き方を教示した。


クルオスはイディアニウムにおいて非常に悪名高い【勇者】であり、その悪評っぷりは国内諸地域にて『あらゆる謀略の渦中に彼女が存在する』と日々話題の種にされているほどである。なかでも有名なのは数年前に起こった【五大貴族】の暗殺事件で、王都では「勇者クルオスこそがその実行犯だったのではないか」とまことしやかに囁かれている。


戦闘においては魔力によって編んだ不可視のワイヤーを武器に戦う。市街地戦や屋内戦など、奇襲が高い効果を発揮する戦いにおいてその本領を発揮するが、大抵の場合、彼女が姿を現すときにはすでにその戦いは『終わって』いる。


前世からの縁があってか、勇者ターナカに並々ならぬ感情を抱いており、平時こそ彼のことを揶揄するような言動ばかりが目立つが、実際は心から彼のことを敬愛している(ターナカの生前は違うものだったはずの彼女の『一人称』にもそれが表れている)。ターナカのためであれば命を投げ出しても構わないほどの覚悟を持っているだけに、その純粋な気持ちが、時折歪んだ愛情として発露することがある。


ターナカにイディアという恋人がいることを、彼女はまだ知らない。

イドラ・イデイン・プロトス


千年以上も昔、イディアニウムが『プロトス国』だった時代に【悪王】として国民から恐れられた人物。イデイン族の父と旧プロトス王族の母の間に生まれた。


プロトス族から王権を奪ったイデイン族の祖母イディア(【女神】イディアとは別の人物)が、プロトス文化や既存の有権者に対して寛容な政治を行ったのと正反対に、イドラは独自の改革によって中央集権化を図った。貴族を主な対象とした新税制の導入や、イディアニウム騎士団の前身である【銀の兵団】の設立(軍事拡充)が主な功績である。


自身の目的のためであれば手段を選ばない性格であり、本来王権を継ぐはずであった父を始め、身内にすら容赦なく手をかけたとされている。そのため彼は国民・貴族・王家の全てから反感を買っており、最後には妹であるイディア(のちの【女神】イディア)が起こした反乱によって倒れた。


悪名ばかりが目立つ中、現イディアニウムでの歴史編纂事業においては一部、『悪王イドラによって実施された行政改革や王家主導の各種土木事業は、国内産業の活性化を促し、以降千年以上に亘るイディアニウムの平和の礎となった』と解釈する向きも出てきている。

しかし、それでもやはり『【魔王】の発生は非業の死を遂げたイドラの〝呪い〟によるものである』というイディアニウムの誰もが知る巷説が、今まさにその場所に生きる人間たちにとって、【悪王】の存在をいまだ受け入れがたいものとしている。


【魔王】として現在のイディアニウムに転生し、【黒箱城】を訪れていたターナカと邂逅を果たした。

その他の登場人物


・【勇者】


タクミ・ニーシャ/西谷 拓海

…【愚勇】の勇者。最強の勇者と名高い。現在はフテルシア島の【獣の大地】にて活動している。


ハーミット・サハラ/佐原 栄路

…【銀狼】の勇者。【愚勇】に唯一匹敵しうる存在と云われている。ゼーレン公管轄地である雪山地帯で時折目撃されている。


ミッチェル・エンド/遠藤 美千流

…【鬼骨】の勇者。マルティン公領管轄地にある『靴売り宿』の用心棒。ターナカと親交を結んでいる。


ソラ・ヨシダ/吉田 空

…【蒼穹】の勇者。王都以北全域を活動地域としており、イディアニウムの人々から『天才』と称されている。勇者クルオスに一目惚れした。


サクラ・エドガー/江戸川 咲良

…【華煙】の勇者。アルトゥール公管轄地【魔女の森】を拠点としている。【銀狼】と因縁がある。


ケイジ・ミーティア/三田 啓司

…【悪童】の勇者。王都以南【渇望の大地】に蔓延る荒くれ者たちを己の拳一つでまとめ上げた。【鬼骨】を姉貴分として慕っており、ターナカとも親交がある。


アツコ・シーヴァ/椎葉 篤子

…【連環】の勇者。普段は拠点である【蟲血ヶ浦】に引きこもっている。単独でダンジョン【歌い人の虚空】踏破を果たした。ターナカに扶養されることが夢。


クアッド/阿藤 九

…【峨々】の勇者。イディアニウム騎士団員としても活動している。【鬼骨】や【悪童】と折り合いが悪く、ターナカを敵対視している。



・イディアニウム人


ユーバ・プロトス

…イディアニウム現国王。過去に一度ターナカと対面したことがある。


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