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 1984年にイギリスであるバンドの曲が発表された。
 その曲のタイトルは「Show」。
 この曲名にハッとした人間が、2023年の日本にいたーー。

 今日の成果。
 最近流行っているという噂だが、実際のところはどうかわからないカセットテープ、1本。
 古くからあるレコード屋で、カセットテープを買った僕はドキドキしていた。なにせ初めて聞くカセットテープだ。中学生にしてはレトロな趣味かもしれないが、父がもともとレコード収集家だった。その延長で家にはレコードプレイヤーなんかもあるけど、僕が目をつけたのはカセットレコーダー。スマホで音楽を聞く時代だが、正直これだと充電が持たず、県外の私立中学に通う僕とはあまり相性がよくない。そんな悩みを持っていたある日、倉庫部屋から見つけたのが、父のカセットテープレコーダーだったのだ。
 動力は乾電池2本。これでどれだけ持つんだろう。とりあえず、本日学校帰りに買ったカセットテープを挿入して再生してみる。
 ーーすごい。昔のロックバンドの曲なのに、カセットテープなのに、音はデジタル音源と遜色がない。僕は感動した。
 僕が買ったのは、「Show」というカセットテープだ。これがバンド名なのか曲名なのかもあんまりよくわかっていない。カセットテープのジャケットは、情報量が少ない。しかも歌詞カードなんてものすらついていない。そんな丁寧な作りになんてなっていない。このカセットが800円。博打だった。曲の良さ? 知らない。まったく聞いたことのないバンドの曲を聞いている。ただ音を楽しむだけだ。通学の苦痛を紛らわすために買った、知らない国の知らないバンド。とりあえず英語なのはわかったけど、何を言ってるかどうかなんて知ったこっちゃない。
 何回も連呼される「Show」というワード。ショウ……しょう……そう言えば。
 僕は部屋のベッドに寝転びながら、スマホのニュースで「衝」がどうのとかいう記事があったことを思い出した。科学の先生も授業中に興奮していたっけ。
 衝とは、なんか惑星が太陽とどうのとかいうアレらしい。僕はあんまり詳しくないけども、気になる人は調べてみてほしい。
 何度もバンドのボーカルは「ショウ!」と連呼している。日本で衝が見られるのは11月3日。木星が「衝」を迎えるらしい。僕はカセットを聞きながら、なんだか違和感を覚えた。ーーこの曲、テンポズレてないか? ワンテンポ遅いっていうか。感覚的なものだからなんとも説明がつかないんだけど。
 このバンドについて、ネットにはまったく情報がない。それだけマイナーバンドということなんだろうか。とりあえず……なんだかおかしいぞ?

 その頃ーー

『衝の起こる時間がズレてるって!? それは本当なのか、Rabbit』
『マジっぽい。アメリカ海軍からの情報だからね。グリニッジ天文台、うるう秒問題起きちゃってるみたい』
『はぁ……今夜も徹夜かぁ』
『っていうか、このこと一般の人も気づいてるみたいだよ?』
『なんだって?』

 Rabbitは手元にあった『Show』のカセットテープの角を指先で抑えると、机の上で地球の自転のように四角を回した。
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