Mars

文字数 1,361文字

 太陽フレア、M1クラス。日本停電箇所複数。通信障害多発。――これが地球のいつも通りになったのはいつだろうか。
 始発電車は運休するしかない。そもそも電車で自殺する人間が増えた国なんか、最低じゃないか。娯楽である小説ですら、登場人物をいそいそと電車に突っ込ませる。それだけ書く側の人間にも救いがないのかもしれない。
 とはいえ、この国以外の自殺率も深刻だ。なぜこうなった? 理由は様々あるが、一言で表すのなら……『天罰』。すべては宇宙デブリの放置や、宇宙開発などと言って火星侵略を考えたり、低俗な音楽を宇宙に送り込んだからだろう。音楽を利用した音波洗脳により、誰かが意図的に自殺者を増やしている。宇宙人か地球人か。どちらかはわからないけども。
 大体火星侵略は物理的に無理なんだ。僕ら人間にできることは、せいぜいデブリの回収をし、自然と調和した生活を思い出し、良質な音楽を地球に響かせることだ。なぜそんなことがわからない?
 ぶつぶつとつぶやいていると、隣の家に住む幼馴染の由香が窓を開けた。

「深夜にうるさい」
「うるさくもなる。火星からの要求と地球側の要求がすり合わないんだから」
「あー、宇宙戦争まだ終わりそうもないのか……」
「お前はずいぶんのんきだな?」
「とりあえず、火星は侵略してこないんでしょ?」
「そう見えるだけ」
「ふうん……私は知らないほうが平和そうだね。で、どっちの頭が固いの?」
「地球側だから手に負えない」
「そうなの? 火星側かと思った」

 火星からの要求はいたってシンプルだ。もう宇宙ゴミを増やすなということと、地球は美しいからその資源を大事にし、他の星を侵略しようと考えるなということ。だが、地球は温暖化やら様々な問題でそろそろ寿命が尽きそうだ。だから一部の人間は火星にコロニーを作ろうとしている。
 たとえ火星にコロニーを作ったところで、地球人が生活できるか? ……今の科学技術じゃ、多分無理だ。じゃあ、水星は? もっと無理だろう。宇宙進出なんて考えるより、地球環境を考えたほうが手っ取り早いし賢い。地球人なら自分の星を守って、ともに生きたほうがいいのだろう。それは火星人側も言っている。なんでこんなに地球人側は愚かなんだ? 僕も地球人だけど意味がわからない。

「はぁ……とりあえずこのことは今日の地球連合議会に伝えるけどさぁ、全然話聞かねぇんだよなぁ。地球側は『火星との交戦だ!』の一点張り。科学技術はあちらさんのほうが上なんだから、そんなことしても勝てっこないっつーの」
「宇宙外交官の一等書記官って、もっとヒーローっぽくなると思っていたけど、なんだか中間管理職じゃない」
「その通りだよ……板挟みすぎる」

 はぁ、と大きくため息をつく。好きでこんな外交官になんかなるわけがない。成り行きでなってしまった中間管理職。この『宇宙外交官』という職、実は平成時代からあるものだ。前任者は知らないが、インターネットや軍事技術や通信技術が急激に進みだそうとするときに、宇宙人は地球人にコンタクトを取ってくる。方法としては、『夢の中のお告げ』とか、音波によってだ。
 だが、コンタクトを取ろうとする理由はきっと、地球に対しての何らかの警告なのだろう。知らんけど。

 結局僕は『宇宙外交官』という冠をつけた、ただの夢想家なのかもしれない。
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