家族

文字数 793文字

 車窓の外に流れる景色を眺めながら、囚われの身になったような自分の無力感を感じていた。これから起こるであろう、夫の家族や親戚とのやり取りを想像すると、憂鬱であった。
家族とはいかに。憂鬱に駆られて、このような疑問について考えた。
 私と夫は家族である。そして、夫と別れない限りはもう他の人とは家族になれない。そんなの、ただの早い者勝ちのシステムではないか。しかし、多くの国がこのシステムを採用している。きっと多くの人はこのシステムが心地よく、疑問を持つことさえもないのかもしれない。しかし私は、夫や妻以外の人とも家族のように濃い関係を築いてもよいじゃないかと思う。お互いを大切に思いつつ、他の人も大切にできないことはないのではないか。私は、夫との関係をこれまで通り続けつつ、別の人を愛することができる自信がある。複数の人を大切にできる自信がある。それに、もし夫が私と一緒に、もう一人別の女性と暮らしたいと願っていたら、それを叶えてあげてもよい。私は変なのだろうか。
 私はこののちに、「ポリアモリー」という概念を知った。複数の人を誠実に愛することができる人々のことを指すということだが、私にも「ポリアモリー」の気質があることを認識した。
 夫の生まれ故郷の駅に降りると、蒸し返した空気が体を包んだ。微かに海の香りがした。駅の脇に生える木々から、けたたましい蝉の鳴き声がしていた。自分の生まれ故郷でも何でもないのに、ここに着くと、懐かしいような、安心するような感覚になる。夫の気持ちに、自分の気持ちが共鳴しているのだろうか。どうだかわからない。
 夫の実家へ行くのは、正月ぶりだ。結婚して数年間、律儀に正月とお盆だけは帰省している。夫の両親は悪い人ではないし、いつも私を温かく迎えてくれる。そんな夫の両親に対して、このような自分で申し訳ないと思った。今回もよい嫁を演じようと心に決めた。
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