第三時 【行】
文字数 7,864文字
人は、運命を避けようとしてとった道で、しばしば運命にであう。
ジャン・ド・ラ・フォンテーヌ
第三時【行】
時間とは、時に拮抗するものだ。
そう、例えば未来と過去のように。
「君がジューク?」
「そうだよ。何か用?」
「俺のこと知ってるんだ?」
「知ってるよ。烏夜でしょ。悪さしてるって聞いてるよ」
「噂なんて信じちゃだめだよ」
「それで何か用?テトと今遊んでるから手短にしてくれると助かるんだけど」
「テトね。テトには興味ないんだよね」
「なんで?」
「だって、テトは時間を進められるだけだろ?ってことは、未来に行けるってこと」
「そうだね」
「未来なんて、いつか行けるじゃない。なのにどうしてわざわざ早く未来に行こうとなんて思うのさ。意味がわからない」
「そうかな」
「でも過去は違う。行こうと思っていける場所じゃない。もう戻ることが出来ない。君はそれが出来る。とてもすごいことだよね!お友達になりたいなーと思ってるんだ。仲良くしよう」
「仲良くなったらどうなるの?」
「どうなる?ああ、メリットかな?そうだね。まあ、今より楽しくなるんじゃないかな?」
「今も楽しいよ?」
「今よりもっと、ずっと、楽しくなるよ」
「具体的には?どんなこと?」
「具体的に・・・」
じーっとジュークに見つめられた烏夜は、ほんの数秒だけ黙ってしまったが、またすぐに笑みを浮かべて答える。
「人間をもてあそんだり、人間を唆したり、人間を泣かしたり、人間を怒らせたり、かな?」
「・・・・・・それって楽しいの?」
「楽しいよ!!!俺はそのために、邪魔をするうっとうしい虫どもを相手にしながらも人間に近づいてるんだから!!」
「・・・うっとうしい虫どもって誰?」
「そうだな。一番は烏兎くんかな。俺がどこにいてもなぜか現われるんだよね。どうしてかな?なんで俺の邪魔をするんだろう」
「一縷のこと?」
「そうそう。ジュークだってああいうのいると、人間と遊べなくてつまらないでしょ?」
烏夜はケタケタと笑いながら話し続けるが、ジュークはそれをちゃんと聞いているのか聞いていないのか、時折どこかを見ながら会話をしている。
烏夜はそのジュークの視線の先に何があるのか気になったものの、そこへ視線を移したところで何もなかったため、気にせずそのまま話し続ける。
「だって烏兎くん俺の契約全部なかったことにしちゃうんだもん。今のところ成功率四割止まり。まあ、人間なんて最後に希望与えたところで欲望に真っ直ぐに生きるものだけど」
「パラレルワールドのこと?」
「そうだよ。人間はいつだって誰だって思っているものなんだ。”人生をやり直したい””人生を替えたい””パラレルの世界で生きたい”とかね」
「でも君は途中で食べちゃうって聞いた」
「そんなことまで聞いてるんだね。最初はね、本当に人間のためだよ?でもね、ほら、俺も食べることが好きだからさ。人間を連れていく中でお腹が空いちゃうとね、気づくと食べちゃってるんだよね」
烏夜の言葉を、ジュークは表情ひとつ変えることなく聞く。
「だから俺と仲良くしてよ、ジューク」
「それは強制?」
「嫌だなぁ、そんなわけないよ。仲良く、だよ?友達って強制するものじゃないからね。ジュークの意思を尊重するよ」
にっこりと微笑みながらそう言う烏夜に対し、ジュークはまた視線をどこかへと向ける。
一体何を見ているんだろうと思った烏夜がジュークに尋ねようとしたとき、ジュークが「あ」と言って目を見開く。
烏夜は確認しようとすると、そこには青い髪をした男がモノクロのデザインを身に纏った蝶々を連れていた。
「テトー、やっと来た」
「さっきから俺のこと呼びすぎ」
「だって今日は一緒にパズルするって約束したのにさー、全然起きてこないから」
「・・・・・・」
ジュークが嬉しそうに笑いながら、男、テトに話しかける。
テトの登場に、烏夜は急に口を紡ぐ。
欠伸をしながらジュークに近づいていくテトは、そこにいる烏夜には目もくれることなく通り過ぎる。
それが気に入らなかったのか、それともテトのこと自体が気に入らないのか、烏夜はテトの体に触れようと腕を伸ばす。
しかし、テトの体を掴むことは出来なかった。
すり抜けたのか、それとも避けられたのかはわからないが。
「パズルって言ったって、俺がいっつもほとんどやってるじゃん。昨日も半分以上俺がやったよ」
「だってわかんないんだもん。苦手だから。得意な人に任せようかなって」
「少しは考えてやってよ」
「じゃあ今日はちょっとだけやるよ」
なんとものほほんとした会話が聞こえてくるが、烏夜の表情は先ほどより少し曇っている。
「邪魔しないでくれるかな?テト」
「・・・邪魔って何が?」
ここにきてようやく、テトが烏夜と目を合わせる。
「俺はね、邪魔されるのが嫌いなんだ」
「邪魔されるのは誰だって嫌いだよ。俺もそう。ジュークもそう。人間もそう」
「人間と一緒にされるのは心外だな」
「でも事実だよ」
「なんで俺の邪魔するの?今ジュークと仲良くしようって話をしてたんだよ。友達になるんだ」
「ジューク、そうなの?」
テトがジュークに確認するように尋ねると、すでにパズルを始めていたジュークは適当に相槌を打つだけだった。
「違うって」
「そんなこと言ってないじゃない」
「ジュークには友達とかそういう概念はないよ。だから違う」
「なんで君にそんなことわかるのかな?ジュークと君はあくまで別個体。そんなことわからないよね?」
「わかるよ」
「どうして?」
ジュークと話しているときとは異なり、多少の苛立ちを見せ始める烏夜に対し、テトは淡々と続ける。
「それを烏夜に話す必要はないかな」
「・・・・・・」
口角をぴく、と動かした烏夜は、視線をテトからジュークへと戻すと、テトと話していたときよりもずっとにこにこしながら話しかける。
「ジュークは俺と友達になるんだもんね?」
諦めない烏夜に対し、ジュークはパズルに夢中だ。
なかなかピースがはまっていかないからか、唇を尖らせながら一人ぶつぶつ何か言いながら考えているようだ。
そんなジュークを見て、烏夜はため息を吐きながらテトに言う。
「正直さぁ、テト、君は俺にとって不必要なんだよ。わかるよね?時間は自然に過ぎていく。要するに、君がいなくても未来は来るんだよ。それなら自ら望んで未来に行く必要なんてあると思うかい?」
「・・・・・・」
「俺はね、ジュークと手を組んで、もっともっと人間を絶望させたいんだ。一縷が来てもどうにも出来ないくらい、めちゃくちゃにしてやりたいの。俺は”人生をやり直し”させるためにパラレルに連れていくけど、そこにジュークがいれば確実に過去に連れていけるじゃない。そしたら人間は愚かだからもっと寄ってくる。向こうから近づいてくる。食虫植物に食われる虫のように、気づいたときには戻れない沼にはまる。俺はそうなってほしいの」
「・・・・・・」
「烏兎くんが最近は本当に毎回邪魔しにくるんだよ。この前だって、契約の途中で邪魔してきてさ。その人間も人間でさ。契約破棄になったわけ。どう思う?酷いよね?男に二言はないなんて誰が言ったんだろうね」
「・・・・・・」
「ああ、でもその時は烏兎くんにも重症負わせられたからいいけど。怪我なんて治っちゃうし。烏兎くん頑丈だし」
「・・・・・・」
「というわけなんだよ。わかってくれた?わかってくれるよね?」
「・・・・・・」
「テト―、やっぱりわかんない。これは?全部ピースそろってる?失くしてない?全然はまるのがないんだけど」
二人の間に漂う空気など読まず、気にせず、ジュークがテトに話しかける。
ずっと黙ったままだったテトは、ジュークに話しかけられてもしばらく何も言わなかった。
いつもなら適当であろうとなんだろうと返事をしてくれるテトに対し、ジュークは首をかしげながらテトをじっと見る。
「帰ってくれる?」
数分ぶりに聞こえてきたテトの声は、なんとも冷たいものだった。
ジュークは少し驚いたような表情になるが、すぐに行動に出たのは烏夜だった。
ジュークが遊んでいたパズルへと近づいたかと思うと、それを思い切り蹴とばしてしまったため、ピースが飛び散る。
「あああああああああああ!!!!」
まだそこまで進んではいなかったものの、ジュークはムンクの叫びのようになった。
「俺はね、聞き分けの悪い奴は嫌いだよ。言うこと聞かないやつも嫌いだ」
顔は笑っているが、低い声を出している烏夜に、ジュークは空気も読まずにパズルの文句を言おうとしたのだが、テトが先に口を開く。
「やっぱり、人間みたいだ」
「・・・・・・嫌いだなぁ、お前」
烏夜は、テトに襲いかかる。
「喧嘩はダメだよ」
とは言いつつも、ジュークは止めようとはしていない。
テトに襲いかかった烏夜だが、テトは特に避けることもなく、ただ、テトの周りを飛んでいた蝶々が烏夜の方へと近づいてきた。
握りつぶしてしまおうとした烏夜だが、不思議なことに、その蝶々に触れられた瞬間、まるで意識が飛んだ感覚に襲われた。
気づくと先ほどまでいた場所に立っており、烏夜は自分の体を確認する。
何が起こったのかわからないが、烏夜はジュークを誘い出すために再び勧誘をする。
「ジューク、欲しいものはない?俺と友達になったらなんでもあげるよ」
「欲しいもの?」
「そういうのは友達とは言わない」
「君は黙ってて」
「そうだなぁ・・・。欲しいもの・・・。欲しいもの?なんだろう。考えたことないなぁ」
うーん、と首をひねられるところまでひねりながら考えているが、すぐには出てこないようだ。
「そうだ。テト」
「なに」
いきなりテトに話を振るジュークに、烏夜はぴくりと一瞬だけ眉間にしわを寄せる。
「テトがほしい。テトの青い髪がほしい」
「俺の髪?なんで?自分の髪気に入ってるんじゃなかった?」
「たまには変えたいじゃん。ずっとこの色なんだもん」
「好きに変えたら?誰かに文句言われるわけでもないし」
「そうかな?」
自分の髪をいじっているジュークに、烏夜は心の中で盛大なため息を吐く。
「よし、じゃあこうしよう」
烏夜はいきなりジュークに提案をする。
「俺とテトが勝負して、勝った方とジュークが一緒にいるっていうのはどう?」
「えー、まあ、いいけど」
「勝負するのは俺だよ。なんでジュークがいいかどうか決めるの」
そんな文句を言いながらも、流れでそういうことになってしまった。
ジュークは観戦する気満々のようで、どこからかお菓子を持ってきていた。
「なんで俺が。ジュークのせいだ」
「え、そうなの」
「じゃあ、始めようか」
テトは不機嫌そうにしているが、烏夜はにっこりと微笑んで少しだけ両腕を伸ばす。
「よし、じゃあ頑張ろうかな」
「今日はゆっくり過ごす予定だったのに。こんなことしてる時間がもったいない。別のことして過ごしたい。一人静のところにでもいればよかったな」
「一人静?」
「こっちの話」
テトは額を人差し指で数回かくと、一人のんびりとしているジュークを見て、さらに不機嫌そうにする。
こんなことに巻き込まれるとは思っていなかったためか、じーっとジュークを見ているが、ジュークはお菓子に夢中でそれどころではないらしい。
「さあ、こっちはこっちで始めよう。早くケリがつきそうだけど」
そういうと、烏夜はいきなりテトとの距離を縮めてきた。
「そういうの得意じゃないんだけどな」
「じゃあさっさと負けてくれる?そしたらジュークを連れていくから」
「負けるのも得意じゃないな」
「ジューク、何してるんだ」
「あれ、一縷だ。どうしたの?」
「ここに烏夜が来なかったか。気配を感じて来てみたんだが・・・」
ふと現われた男、一縷は、そこにいるはずの烏夜が見当たらないためきょろきょろと辺りを見渡す。
頬をお菓子でいっぱいにし膨らませているジュークは、そこにいたはずの烏夜の姿を確認もせず、こう答える。
「テトが相手してた」
「・・・そのテトはどこに行ったんだ」
「さっきまでそこにいたよ。烏夜とね、戦ってたよ」
「さっきまでって・・・。まさか、あいつ能力使ったんじゃないだろうな」
「使ったのかもね。テトを怒らせるようなこと言うから仕方ないよ」
「・・・・・・」
「何?」
「いや、別に」
一縷がその場から立ち去ろうとしたとき、ジュークが一縷の目の前にお菓子を差し出してきた。
特にそれを受け取るわけでもなく、一縷はジュークを見る。
「なんだ」
「食べないの?美味しいよ」
「お前、烏夜に何言われたんだ」
「何って、勧誘?されただけだよ。友達になろうって言われた」
「友達?」
何を言っているのかわからないといったように、一縷は怪訝そうな顔を見せる。
ジュークは一縷に睨まれたと思ったのか、口にお菓子を頬張りながら、差し出していたお菓子をひっこめる。
もぐもぐと効果音を背後に置きながら、ジュークは舌で唇を舐める。
「生まれるまでは大変なのに、死ぬときはあっけないよね」
「何の話だ」
「この世の摂理の話」
口の中に入っていたお菓子がなくなったところで、ジュークはお菓子と口とを往復していた手を止める。
そんな珍しく真面目っぽいことを話すジュークに、一縷は和傘を肩に担ぎながら聞き返す。
「お前らに”生まれる”だの”死ぬ”だのっていう概念があるのか」
「無いけど。人間にはあるんでしょ?よく知らないけど」
「よく知らないのに言ったのか」
「聞いたんだもん。なんだっけ。生まれるまでは知らないところで何度も何度も生まれることなく消えていって、やっとの想いで繋がれてこの世に誕生するのに、死ぬときは時間もかからずあっけないって」
「誰に聞いたんだ、それ」
「んーとね、誰だっけ?」
「適当だな」
「でもそうなんでしょ?やっと生まれてきたって、人間はお互い傷つけるんでしょ?人を傷つけても平気なんでしょ?自分が傷つかなければいいんでしょ?」
「・・・・・・」
「生まれるって大変なのに、何億年かかってようやく生まれてくるのに、大事にできないなんてね。それで死ぬときは一瞬って、人間はなんで存在してるんだろうね」
「・・・・・・」
「一縷は知ってる?」
「・・・それは俺に対する嫌味か?」
「え?なんで?」
「いや、なんでもない」
「虫歯に物が引っかかる言い方しないでよー」
「奥歯、な」
「ま、なんでもいいんだけどさ。烏夜って案外馬鹿なんだね」
ジュークの遠慮のない言い方に、一縷は思わず笑いそうになる。
口元を手で隠し一度咳払いをすると、今度はパズルを始めたジュークを見て、一縷は尋ねる。
「なんで馬鹿なんだ」
一縷の問いかけに、ジュークは当然のように答える。
「テトの方がすごいのに、それがわかってないんだもん」
「?」
「時間を巻き戻すこともすごいと思うよ。人間には出来ないことだし、過去に戻って何かをするって、出来たらそれこそみんな欲しがる力だよね。それは当然なんだけど」
自画自賛でもしているのかと、一縷は首をコキッと鳴らす。
パズルのピースを持っていたはずのジュークは、気づくとピースを口に入れて歯で嚙んでいた。
「でも、時間を巻き戻したところで”今”からは逃げられないじゃない。また同じような”今”がやってくるだけ。それを、『未来を変えられた』なんて思ってるならとんだ勘違いだと思うけどな」
「・・・・・・」
「でも時間を進めるってことは、”今”から脱却することが出来る。そりゃ、烏夜が言ってた通り、無理に時間を進めなくても未来は来るよ。けど、”明日が来る”のと”明日が来ずに明後日が来る”だけでも随分違うよね?一日が消えてるわけだから」
「・・・・・・」
「それをあの烏夜はわかってなかったんだ。だからテトは怒った。怖かったなー。今ごろあの人どっかずーーーーーーっと先の未来にでも飛ばされたかな?」
「やっぱり能力使ったのか」
「でも勝負しようって言ってきたのはあっちだよ」
「あいつの相手なら俺がした」
「テトが乗るって言ったから」
「俺は言ってないよ」
「あ、テトおかえり」
急にテトが帰ってきて、ジュークは嚙んでいたパズルのピースを口から出す。
ジュークの歯型がついているそのピースを見て、テトは二度とそのパズルはやらないと誓っていたことなど、ジュークは知らないだろう。
そこにいた一縷に、テトは手を軽く振る。
「あ、一縷だー」
「あいつは?どこに飛ばした?」
「大好きなパラレルにでも行ったんじゃない?」
「お前が飛ばしたんじゃないのか?」
「どれだけ時空を変えたって、時空にいる限り俺たちからは逃げられないからね。そうなったのかも」
「・・・・・・」
「そのうちまた一縷の前に現われると思うよ。どうせ色んな時空を飛んでここに戻ってきそうだもん、あの人。ジュークに対する執着がすごい。気持ち悪かった」
「変な物でも食べたの?」
「ジュークは黙ってろ」
「一縷酷い」
しくしくと泣き真似をするジュークに、テトは優しく微笑みながら頭をぽんぽんと撫でてあげる。
それだけで機嫌を良くしたジュークは、再びパズルへと意識を向ける。
一縷へと視線を戻したテトの周りには、あのモノクロの蝶々が飛んでいる。
「俺たちは誰にも縛られない。俺たちを動かすことが出来るのは摂理だけだよ」
「当然だ。お前たちは不変でなければいけない」
「一縷、その体は慣れた?」
「まあまあだ」
「ふふ、良かったね。最近は人間が自ら絶望を望む場面も多いけど、それでも頑張ってるんだね」
「絶望があるならどこへでも行く。それが俺のやるべきことだ」
「大忙しだね」
それからすぐ、一縷は去っていった。
ジュークがパズルに夢中になっている間に、テトは散歩に行ってしまったらしく、気づいたときにはジューク一人になっていた。
「面白い。そうか。あの二人を手に収めることが出来れば、一気に形勢は逆転する。なんとしてでも手に入れたいな」
テトに何をされたのか、烏夜はどこか真っ暗闇をさ迷い歩いていた。
だからといって、本人は恐怖や不安を感じていないようで、何やら楽しそうに笑みを浮かべていた。
この先に出口があるのかさえわからないその場所を歩き続ける背中は、闇へ溶けていく。
「テト、どこ行ってたの!お腹空いちゃったよ!」
「ごめんごめん。ちょっとね」
「もう!見てこれ!パズル完成したんだよ!!!」
じゃーん!とジュークがテトに完成したと言って見せたパズルは、すぐにバラバラと落ちてしまった。
「ああああああ!!!せっかく完成してたのに!!!」
「ジューク、無理矢理はめて完成させただろ。絵がめちゃくちゃだったよ」
「え、あれってああいう幾何学的な絵だったんじゃないの」
「違うよ。ここに完成図が載ってるだろ。ほら、全然違うよ」
「本当だ!!!なんだー、頑張ってはめたのになー。もう一回だ!!!」
「それよりジューク」
「なに?」
「こっちのゲームやろうよ。”人生ゲーム”っていうらしいよ」
「面白そうだね!やろう!!!」
彼らはそこに存在しているだけで、【蓋世之才】なのである。
だからこそ、誰も、彼らには敵わない。
ジャン・ド・ラ・フォンテーヌ
第三時【行】
時間とは、時に拮抗するものだ。
そう、例えば未来と過去のように。
「君がジューク?」
「そうだよ。何か用?」
「俺のこと知ってるんだ?」
「知ってるよ。烏夜でしょ。悪さしてるって聞いてるよ」
「噂なんて信じちゃだめだよ」
「それで何か用?テトと今遊んでるから手短にしてくれると助かるんだけど」
「テトね。テトには興味ないんだよね」
「なんで?」
「だって、テトは時間を進められるだけだろ?ってことは、未来に行けるってこと」
「そうだね」
「未来なんて、いつか行けるじゃない。なのにどうしてわざわざ早く未来に行こうとなんて思うのさ。意味がわからない」
「そうかな」
「でも過去は違う。行こうと思っていける場所じゃない。もう戻ることが出来ない。君はそれが出来る。とてもすごいことだよね!お友達になりたいなーと思ってるんだ。仲良くしよう」
「仲良くなったらどうなるの?」
「どうなる?ああ、メリットかな?そうだね。まあ、今より楽しくなるんじゃないかな?」
「今も楽しいよ?」
「今よりもっと、ずっと、楽しくなるよ」
「具体的には?どんなこと?」
「具体的に・・・」
じーっとジュークに見つめられた烏夜は、ほんの数秒だけ黙ってしまったが、またすぐに笑みを浮かべて答える。
「人間をもてあそんだり、人間を唆したり、人間を泣かしたり、人間を怒らせたり、かな?」
「・・・・・・それって楽しいの?」
「楽しいよ!!!俺はそのために、邪魔をするうっとうしい虫どもを相手にしながらも人間に近づいてるんだから!!」
「・・・うっとうしい虫どもって誰?」
「そうだな。一番は烏兎くんかな。俺がどこにいてもなぜか現われるんだよね。どうしてかな?なんで俺の邪魔をするんだろう」
「一縷のこと?」
「そうそう。ジュークだってああいうのいると、人間と遊べなくてつまらないでしょ?」
烏夜はケタケタと笑いながら話し続けるが、ジュークはそれをちゃんと聞いているのか聞いていないのか、時折どこかを見ながら会話をしている。
烏夜はそのジュークの視線の先に何があるのか気になったものの、そこへ視線を移したところで何もなかったため、気にせずそのまま話し続ける。
「だって烏兎くん俺の契約全部なかったことにしちゃうんだもん。今のところ成功率四割止まり。まあ、人間なんて最後に希望与えたところで欲望に真っ直ぐに生きるものだけど」
「パラレルワールドのこと?」
「そうだよ。人間はいつだって誰だって思っているものなんだ。”人生をやり直したい””人生を替えたい””パラレルの世界で生きたい”とかね」
「でも君は途中で食べちゃうって聞いた」
「そんなことまで聞いてるんだね。最初はね、本当に人間のためだよ?でもね、ほら、俺も食べることが好きだからさ。人間を連れていく中でお腹が空いちゃうとね、気づくと食べちゃってるんだよね」
烏夜の言葉を、ジュークは表情ひとつ変えることなく聞く。
「だから俺と仲良くしてよ、ジューク」
「それは強制?」
「嫌だなぁ、そんなわけないよ。仲良く、だよ?友達って強制するものじゃないからね。ジュークの意思を尊重するよ」
にっこりと微笑みながらそう言う烏夜に対し、ジュークはまた視線をどこかへと向ける。
一体何を見ているんだろうと思った烏夜がジュークに尋ねようとしたとき、ジュークが「あ」と言って目を見開く。
烏夜は確認しようとすると、そこには青い髪をした男がモノクロのデザインを身に纏った蝶々を連れていた。
「テトー、やっと来た」
「さっきから俺のこと呼びすぎ」
「だって今日は一緒にパズルするって約束したのにさー、全然起きてこないから」
「・・・・・・」
ジュークが嬉しそうに笑いながら、男、テトに話しかける。
テトの登場に、烏夜は急に口を紡ぐ。
欠伸をしながらジュークに近づいていくテトは、そこにいる烏夜には目もくれることなく通り過ぎる。
それが気に入らなかったのか、それともテトのこと自体が気に入らないのか、烏夜はテトの体に触れようと腕を伸ばす。
しかし、テトの体を掴むことは出来なかった。
すり抜けたのか、それとも避けられたのかはわからないが。
「パズルって言ったって、俺がいっつもほとんどやってるじゃん。昨日も半分以上俺がやったよ」
「だってわかんないんだもん。苦手だから。得意な人に任せようかなって」
「少しは考えてやってよ」
「じゃあ今日はちょっとだけやるよ」
なんとものほほんとした会話が聞こえてくるが、烏夜の表情は先ほどより少し曇っている。
「邪魔しないでくれるかな?テト」
「・・・邪魔って何が?」
ここにきてようやく、テトが烏夜と目を合わせる。
「俺はね、邪魔されるのが嫌いなんだ」
「邪魔されるのは誰だって嫌いだよ。俺もそう。ジュークもそう。人間もそう」
「人間と一緒にされるのは心外だな」
「でも事実だよ」
「なんで俺の邪魔するの?今ジュークと仲良くしようって話をしてたんだよ。友達になるんだ」
「ジューク、そうなの?」
テトがジュークに確認するように尋ねると、すでにパズルを始めていたジュークは適当に相槌を打つだけだった。
「違うって」
「そんなこと言ってないじゃない」
「ジュークには友達とかそういう概念はないよ。だから違う」
「なんで君にそんなことわかるのかな?ジュークと君はあくまで別個体。そんなことわからないよね?」
「わかるよ」
「どうして?」
ジュークと話しているときとは異なり、多少の苛立ちを見せ始める烏夜に対し、テトは淡々と続ける。
「それを烏夜に話す必要はないかな」
「・・・・・・」
口角をぴく、と動かした烏夜は、視線をテトからジュークへと戻すと、テトと話していたときよりもずっとにこにこしながら話しかける。
「ジュークは俺と友達になるんだもんね?」
諦めない烏夜に対し、ジュークはパズルに夢中だ。
なかなかピースがはまっていかないからか、唇を尖らせながら一人ぶつぶつ何か言いながら考えているようだ。
そんなジュークを見て、烏夜はため息を吐きながらテトに言う。
「正直さぁ、テト、君は俺にとって不必要なんだよ。わかるよね?時間は自然に過ぎていく。要するに、君がいなくても未来は来るんだよ。それなら自ら望んで未来に行く必要なんてあると思うかい?」
「・・・・・・」
「俺はね、ジュークと手を組んで、もっともっと人間を絶望させたいんだ。一縷が来てもどうにも出来ないくらい、めちゃくちゃにしてやりたいの。俺は”人生をやり直し”させるためにパラレルに連れていくけど、そこにジュークがいれば確実に過去に連れていけるじゃない。そしたら人間は愚かだからもっと寄ってくる。向こうから近づいてくる。食虫植物に食われる虫のように、気づいたときには戻れない沼にはまる。俺はそうなってほしいの」
「・・・・・・」
「烏兎くんが最近は本当に毎回邪魔しにくるんだよ。この前だって、契約の途中で邪魔してきてさ。その人間も人間でさ。契約破棄になったわけ。どう思う?酷いよね?男に二言はないなんて誰が言ったんだろうね」
「・・・・・・」
「ああ、でもその時は烏兎くんにも重症負わせられたからいいけど。怪我なんて治っちゃうし。烏兎くん頑丈だし」
「・・・・・・」
「というわけなんだよ。わかってくれた?わかってくれるよね?」
「・・・・・・」
「テト―、やっぱりわかんない。これは?全部ピースそろってる?失くしてない?全然はまるのがないんだけど」
二人の間に漂う空気など読まず、気にせず、ジュークがテトに話しかける。
ずっと黙ったままだったテトは、ジュークに話しかけられてもしばらく何も言わなかった。
いつもなら適当であろうとなんだろうと返事をしてくれるテトに対し、ジュークは首をかしげながらテトをじっと見る。
「帰ってくれる?」
数分ぶりに聞こえてきたテトの声は、なんとも冷たいものだった。
ジュークは少し驚いたような表情になるが、すぐに行動に出たのは烏夜だった。
ジュークが遊んでいたパズルへと近づいたかと思うと、それを思い切り蹴とばしてしまったため、ピースが飛び散る。
「あああああああああああ!!!!」
まだそこまで進んではいなかったものの、ジュークはムンクの叫びのようになった。
「俺はね、聞き分けの悪い奴は嫌いだよ。言うこと聞かないやつも嫌いだ」
顔は笑っているが、低い声を出している烏夜に、ジュークは空気も読まずにパズルの文句を言おうとしたのだが、テトが先に口を開く。
「やっぱり、人間みたいだ」
「・・・・・・嫌いだなぁ、お前」
烏夜は、テトに襲いかかる。
「喧嘩はダメだよ」
とは言いつつも、ジュークは止めようとはしていない。
テトに襲いかかった烏夜だが、テトは特に避けることもなく、ただ、テトの周りを飛んでいた蝶々が烏夜の方へと近づいてきた。
握りつぶしてしまおうとした烏夜だが、不思議なことに、その蝶々に触れられた瞬間、まるで意識が飛んだ感覚に襲われた。
気づくと先ほどまでいた場所に立っており、烏夜は自分の体を確認する。
何が起こったのかわからないが、烏夜はジュークを誘い出すために再び勧誘をする。
「ジューク、欲しいものはない?俺と友達になったらなんでもあげるよ」
「欲しいもの?」
「そういうのは友達とは言わない」
「君は黙ってて」
「そうだなぁ・・・。欲しいもの・・・。欲しいもの?なんだろう。考えたことないなぁ」
うーん、と首をひねられるところまでひねりながら考えているが、すぐには出てこないようだ。
「そうだ。テト」
「なに」
いきなりテトに話を振るジュークに、烏夜はぴくりと一瞬だけ眉間にしわを寄せる。
「テトがほしい。テトの青い髪がほしい」
「俺の髪?なんで?自分の髪気に入ってるんじゃなかった?」
「たまには変えたいじゃん。ずっとこの色なんだもん」
「好きに変えたら?誰かに文句言われるわけでもないし」
「そうかな?」
自分の髪をいじっているジュークに、烏夜は心の中で盛大なため息を吐く。
「よし、じゃあこうしよう」
烏夜はいきなりジュークに提案をする。
「俺とテトが勝負して、勝った方とジュークが一緒にいるっていうのはどう?」
「えー、まあ、いいけど」
「勝負するのは俺だよ。なんでジュークがいいかどうか決めるの」
そんな文句を言いながらも、流れでそういうことになってしまった。
ジュークは観戦する気満々のようで、どこからかお菓子を持ってきていた。
「なんで俺が。ジュークのせいだ」
「え、そうなの」
「じゃあ、始めようか」
テトは不機嫌そうにしているが、烏夜はにっこりと微笑んで少しだけ両腕を伸ばす。
「よし、じゃあ頑張ろうかな」
「今日はゆっくり過ごす予定だったのに。こんなことしてる時間がもったいない。別のことして過ごしたい。一人静のところにでもいればよかったな」
「一人静?」
「こっちの話」
テトは額を人差し指で数回かくと、一人のんびりとしているジュークを見て、さらに不機嫌そうにする。
こんなことに巻き込まれるとは思っていなかったためか、じーっとジュークを見ているが、ジュークはお菓子に夢中でそれどころではないらしい。
「さあ、こっちはこっちで始めよう。早くケリがつきそうだけど」
そういうと、烏夜はいきなりテトとの距離を縮めてきた。
「そういうの得意じゃないんだけどな」
「じゃあさっさと負けてくれる?そしたらジュークを連れていくから」
「負けるのも得意じゃないな」
「ジューク、何してるんだ」
「あれ、一縷だ。どうしたの?」
「ここに烏夜が来なかったか。気配を感じて来てみたんだが・・・」
ふと現われた男、一縷は、そこにいるはずの烏夜が見当たらないためきょろきょろと辺りを見渡す。
頬をお菓子でいっぱいにし膨らませているジュークは、そこにいたはずの烏夜の姿を確認もせず、こう答える。
「テトが相手してた」
「・・・そのテトはどこに行ったんだ」
「さっきまでそこにいたよ。烏夜とね、戦ってたよ」
「さっきまでって・・・。まさか、あいつ能力使ったんじゃないだろうな」
「使ったのかもね。テトを怒らせるようなこと言うから仕方ないよ」
「・・・・・・」
「何?」
「いや、別に」
一縷がその場から立ち去ろうとしたとき、ジュークが一縷の目の前にお菓子を差し出してきた。
特にそれを受け取るわけでもなく、一縷はジュークを見る。
「なんだ」
「食べないの?美味しいよ」
「お前、烏夜に何言われたんだ」
「何って、勧誘?されただけだよ。友達になろうって言われた」
「友達?」
何を言っているのかわからないといったように、一縷は怪訝そうな顔を見せる。
ジュークは一縷に睨まれたと思ったのか、口にお菓子を頬張りながら、差し出していたお菓子をひっこめる。
もぐもぐと効果音を背後に置きながら、ジュークは舌で唇を舐める。
「生まれるまでは大変なのに、死ぬときはあっけないよね」
「何の話だ」
「この世の摂理の話」
口の中に入っていたお菓子がなくなったところで、ジュークはお菓子と口とを往復していた手を止める。
そんな珍しく真面目っぽいことを話すジュークに、一縷は和傘を肩に担ぎながら聞き返す。
「お前らに”生まれる”だの”死ぬ”だのっていう概念があるのか」
「無いけど。人間にはあるんでしょ?よく知らないけど」
「よく知らないのに言ったのか」
「聞いたんだもん。なんだっけ。生まれるまでは知らないところで何度も何度も生まれることなく消えていって、やっとの想いで繋がれてこの世に誕生するのに、死ぬときは時間もかからずあっけないって」
「誰に聞いたんだ、それ」
「んーとね、誰だっけ?」
「適当だな」
「でもそうなんでしょ?やっと生まれてきたって、人間はお互い傷つけるんでしょ?人を傷つけても平気なんでしょ?自分が傷つかなければいいんでしょ?」
「・・・・・・」
「生まれるって大変なのに、何億年かかってようやく生まれてくるのに、大事にできないなんてね。それで死ぬときは一瞬って、人間はなんで存在してるんだろうね」
「・・・・・・」
「一縷は知ってる?」
「・・・それは俺に対する嫌味か?」
「え?なんで?」
「いや、なんでもない」
「虫歯に物が引っかかる言い方しないでよー」
「奥歯、な」
「ま、なんでもいいんだけどさ。烏夜って案外馬鹿なんだね」
ジュークの遠慮のない言い方に、一縷は思わず笑いそうになる。
口元を手で隠し一度咳払いをすると、今度はパズルを始めたジュークを見て、一縷は尋ねる。
「なんで馬鹿なんだ」
一縷の問いかけに、ジュークは当然のように答える。
「テトの方がすごいのに、それがわかってないんだもん」
「?」
「時間を巻き戻すこともすごいと思うよ。人間には出来ないことだし、過去に戻って何かをするって、出来たらそれこそみんな欲しがる力だよね。それは当然なんだけど」
自画自賛でもしているのかと、一縷は首をコキッと鳴らす。
パズルのピースを持っていたはずのジュークは、気づくとピースを口に入れて歯で嚙んでいた。
「でも、時間を巻き戻したところで”今”からは逃げられないじゃない。また同じような”今”がやってくるだけ。それを、『未来を変えられた』なんて思ってるならとんだ勘違いだと思うけどな」
「・・・・・・」
「でも時間を進めるってことは、”今”から脱却することが出来る。そりゃ、烏夜が言ってた通り、無理に時間を進めなくても未来は来るよ。けど、”明日が来る”のと”明日が来ずに明後日が来る”だけでも随分違うよね?一日が消えてるわけだから」
「・・・・・・」
「それをあの烏夜はわかってなかったんだ。だからテトは怒った。怖かったなー。今ごろあの人どっかずーーーーーーっと先の未来にでも飛ばされたかな?」
「やっぱり能力使ったのか」
「でも勝負しようって言ってきたのはあっちだよ」
「あいつの相手なら俺がした」
「テトが乗るって言ったから」
「俺は言ってないよ」
「あ、テトおかえり」
急にテトが帰ってきて、ジュークは嚙んでいたパズルのピースを口から出す。
ジュークの歯型がついているそのピースを見て、テトは二度とそのパズルはやらないと誓っていたことなど、ジュークは知らないだろう。
そこにいた一縷に、テトは手を軽く振る。
「あ、一縷だー」
「あいつは?どこに飛ばした?」
「大好きなパラレルにでも行ったんじゃない?」
「お前が飛ばしたんじゃないのか?」
「どれだけ時空を変えたって、時空にいる限り俺たちからは逃げられないからね。そうなったのかも」
「・・・・・・」
「そのうちまた一縷の前に現われると思うよ。どうせ色んな時空を飛んでここに戻ってきそうだもん、あの人。ジュークに対する執着がすごい。気持ち悪かった」
「変な物でも食べたの?」
「ジュークは黙ってろ」
「一縷酷い」
しくしくと泣き真似をするジュークに、テトは優しく微笑みながら頭をぽんぽんと撫でてあげる。
それだけで機嫌を良くしたジュークは、再びパズルへと意識を向ける。
一縷へと視線を戻したテトの周りには、あのモノクロの蝶々が飛んでいる。
「俺たちは誰にも縛られない。俺たちを動かすことが出来るのは摂理だけだよ」
「当然だ。お前たちは不変でなければいけない」
「一縷、その体は慣れた?」
「まあまあだ」
「ふふ、良かったね。最近は人間が自ら絶望を望む場面も多いけど、それでも頑張ってるんだね」
「絶望があるならどこへでも行く。それが俺のやるべきことだ」
「大忙しだね」
それからすぐ、一縷は去っていった。
ジュークがパズルに夢中になっている間に、テトは散歩に行ってしまったらしく、気づいたときにはジューク一人になっていた。
「面白い。そうか。あの二人を手に収めることが出来れば、一気に形勢は逆転する。なんとしてでも手に入れたいな」
テトに何をされたのか、烏夜はどこか真っ暗闇をさ迷い歩いていた。
だからといって、本人は恐怖や不安を感じていないようで、何やら楽しそうに笑みを浮かべていた。
この先に出口があるのかさえわからないその場所を歩き続ける背中は、闇へ溶けていく。
「テト、どこ行ってたの!お腹空いちゃったよ!」
「ごめんごめん。ちょっとね」
「もう!見てこれ!パズル完成したんだよ!!!」
じゃーん!とジュークがテトに完成したと言って見せたパズルは、すぐにバラバラと落ちてしまった。
「ああああああ!!!せっかく完成してたのに!!!」
「ジューク、無理矢理はめて完成させただろ。絵がめちゃくちゃだったよ」
「え、あれってああいう幾何学的な絵だったんじゃないの」
「違うよ。ここに完成図が載ってるだろ。ほら、全然違うよ」
「本当だ!!!なんだー、頑張ってはめたのになー。もう一回だ!!!」
「それよりジューク」
「なに?」
「こっちのゲームやろうよ。”人生ゲーム”っていうらしいよ」
「面白そうだね!やろう!!!」
彼らはそこに存在しているだけで、【蓋世之才】なのである。
だからこそ、誰も、彼らには敵わない。