Fin

文字数 371文字

「せ、ん、ぱーい!」
 気のせいかと思ったが、また聞こえた。立ち上がり窓から顔を出すと、こちらに向かってビニール袋を持った両手をブンブン振っている人がいた。
「水澤!? どうしたの!」
「もーいくら心配しても要領を得ないんで来ちゃいましたー!」
「ちょ! 静かに! 待って今行くから! マスク付けて!」
 不要不急という近所の目もあるから慌てて迎えに行こうとした。しかし中々マスクが見つからなかった。焦っている内にインターホンが水澤の到着を知らせた。囚われた過去から生還したようなこのタイミングに、まるで現実がどっと押し寄せて来たようだ。でもそれは救われてもいるようだった。
 インターホンには出ずに玄関へ向かった。今は水澤の厚意に感謝して、その押し寄せる現実に身を任せようとドアを開けた。訪れた笑顔は、吹き抜ける風と一緒に埃を窓の外へと運ぶようだった。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み