文字数 627文字

 今となっては自分だけが感じていたのかもしれないが、幸せに満ちた生活だった。その生活が変化し始めたのは、彼女がバイト先で社員契約を結んだ時期と、俺の仕事がリモートになった時期が重なった頃からだった。
 広告代理店でキャッチコピーを受け持っていた俺は、緊急事態宣言の発令によって自宅作業という緊急事態になった。送られてくる雑誌などの広告ページのデータに、考えたキャッチコピーやフォントのデザインを入れて送り返す。あとは週に1度のオンラインミーティングだけだった。まあ家で出来る事をオフィスでやる事で、仕事をした気になっていたのだと気付いた人も多かったろう。そんな中でバイト先の弁当屋で社員雇用された彼女は、俺が家に居られる時間が増えると喜んでいたのも束の間、デリバリーの需要増加で仕事が増えていった。

 一人の朝も昼も軽く食事を済ませた。カチカチとパソコンで仕事を済ませると、映画を観ながら昼寝をした。
 洗濯も夕食も彼女が帰って来てからやってくれていた。繰り返す日々の中で、俺は実家にでも居るかのようにテレビを観ているだけで、いつしか彼女を気遣う事をしなくなっていた。彼女は何を感じ、どんな風に思っていたんだろう。その答えは唐突に、しかし当たり前に俺の前に突きつけられた。

 いつものように出勤していた時よりも遅く起きてテレビをつけると、コーヒーメーカーで珈琲をいれた。リビングへと歩きながらマグカップに口を付け、テーブルに置かれたメモ用紙を何気なく手に取った。
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