文字数 572文字

「先輩お風呂入ってます?」
「先輩なんか食べてます?」
「先輩ちゃんと寝てます?」
 彼女が居なくなって2回目のミーティングが終わった頃からだった。入社2年目の水澤(みずさわ)芽留(める)は、わざわざ個別でリモートを繋いできては仕事の話しの後にズバズバと突っ込んでくるようになった。
 最初はよく気付くなと面倒臭く思いながら適当に対応していたが、いつしか何気ない水澤との会話が、唯一外との繋がりのようになっていた。

 ズルズルと過去を引きずる生活が2カ月過ぎた頃だった。いつものように部屋の電気もつけずに、ソファで横になったまま見るでもなくテレビを眺めていた。窓から射す光が照らす部屋の中、ふとオーディオラックの横の壁にあるコンセントが目に入った。そこに刺されたプラグの上には綿埃が乗っかっていた。ずっと掃除をしていなかったにしては白いように感じた。綿埃といえば黒っぽいイメージだ。
 さほど気になった訳ではないが、ソファから体を起こすと部屋を見回した。黒で統一されたオーディオラックやDVDプレイヤーも、うっすらと埃をかぶっていた。掃除されていた事に今まで気付きもしなかった。気付かないくらい彼女に無関心だったんだ。自分の愚かさにも。
 リビングも風呂もトイレも掃除した事がなかった。汚れていると感じた事さえ。自分がどれほど彼女に支えられていたのか、今さら痛いほどに分かった。
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