ケンタロウ①

文字数 996文字

親友。

高校2年の時にカオリに失恋をしてから、オレはカオリの親友に徹した。

カオリの幸せを願っていた。

けれどもう、遅かった。

花火大会の後から、シンジはもうキノシタへの気持ちを隠すことはやめたらしく、誰が見ても好きだとわかるくらい、がむしゃらに近づいていった。

キノシタは相変わらず恋愛より友情、食い気の奴で、シンジを特別に思っているようには見えなかった。

高校2年の終わり、シンジはキノシタに告白した。

クラス替えがあることに焦ったようだ。

キノシタの答えはNO。
シンジのことは友達としか思えない、と伝えた。

3年でもまたオレはシンジと一緒だ。
ここまで一緒だと、運命のようなものを感じる。

カオリともキノシタともクラスは離れた。

けれど、クラスが替わってもシンジはあきらめなかった。

あきらめていない、と、キノシタに何度も告白した。

またか、いい加減あきらめろよ、とオレは言った。

そんな時、カオリは何も言わなかった。

キノシタはここからは遠い地方の大学に進学することにした。
独り暮らしをしたいというのが理由らしい。
シンジはキノシタと同じ大学を受けたが、受からなかった。

浪人して同じ学校を目指すか、別の大学へ行くか迷った末、シンジはキノシタの通う県内の別の大学へ進学することに決めた。

もう、シンジの中にはキノシタしかいない。
シンジの中でオレもカオリも、どんどん小さな存在になってゆく。

キノシタの何が一体シンジをそうさせたのか、最後までオレにはわからなかった。

シンジに聞いても
「それはオレだけが知ってればいい」
と言って、多くを語ろうとはしない。

わからないが、やっぱり自分に似てるキノシタに、理屈ではない何かを感じたんだと思う。

好きだという感情は、言葉で説明するのは難しい。
ふとした瞬間に現れるそれは、『好き』としか、言い様がない。
抑えようとしたって抑えられない。

じゃあ、親友に徹したオレの想いはシンジに負けているのかというと、そうは思わない。

オレはあきらめる選択をしたのだ。
それが、カオリのそばにいられるたった一つの方法だったから。


そしてシンジは明るい笑顔で、あっさりと故郷を後にした。

希望に満ちているって、こーゆー奴の顔を言うんだろうな、とその顔を見て感じた。

オレは、やっぱりシンジという人間が好きだと思った。

カオリはシンジを見送った後、静かに涙を流した。

オレができたのは、持ってたハンカチを、渡すことくらいだった。

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み