カオリ⑤

文字数 688文字

お正月。

バイトをしてるお店は休み。

ケンちゃんとは初詣に行く約束をしていた。

シンちゃんが帰ってくるのは、
知っていた。

約1年。

私の人生で
シンちゃんに会わなかった時間は
初めてで、
長かったようで、
数字にすると短かった。

会うつもりはなかった。

でももう、
会える気はしていた。

ただ、
自信がなかった。

これはまだ恋なのか、
会えば心が揺らぐのか
自分でもわからなくなっていた。


ケンちゃんと初詣に行く日、
家を出ると、
ちょうど出てきたシンちゃんに
会ってしまった。

「おー、カオリ!久しぶり!」

「シンちゃん…!」

会ってしまった。
一瞬だけ、
胸の鼓動が高鳴る。

「元気だった?」

「うん、シンちゃんも、元気そうだね」

「夏も帰ってきてたのに、カオリいねえんだもん」

「そう、バイト始めたの、本屋さんで」

「うん、聞いた。なーんだ、オレがいなくても、ちゃんとやってんだな!」

「何それ、子どもみたいに」
シンちゃんの口調がお父さんみたいで
笑った。

良かった。
ちゃんと、
笑えてる。

「なんかさ、あっちでやっぱ、さみしーときあるよ、カオリがいないと」

シンちゃんが、
笑う。
お日様みたいな笑顔で。

ああ。
私、
この笑顔が、


好き、
だった。

「幼なじみって、やっぱいーな!ほっとするわ!」

「調子いいなー」
笑って見せたけど、
涙が出そうだった。

「次帰ってきたら、ゆっくり会おーぜ、ケンもいっしょに!」

「うん、ケンちゃんに言っておく」

笑って、
手をふる。

大丈夫。

涙が出そうになったのは。

私が
シンちゃんを
幼なじみと思えたからだ。

長い初恋を
ちゃんと終わらせられていたのだと。

シンちゃんを卒業して、
前に進んでいるのだと、
自分の気持ちが確かに
わかったからだった。


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