ケミカルウェイ そのⅣ

文字数 822文字

「さあ粒磨! 水酸化ナトリウムの煙がお前を包み込むぞ! アルカリ性の液体は、タンパク質を溶かすって聞くぜ! お前の体がドロドロになっちまうぞ? どうする気だ?」

 調子に乗った烈児がそう叫んだ。確かに強塩基性の液体は、人体に悪影響を及ぼす。水酸化ナトリウム水溶液は強塩基。烈児のセリフは間違ってはいない。

「どうするって、やることはただの一つだぜ?」

 俺は水を散弾させた。

「どこ狙って撃ってやがる? もうやけになったのか?」

 違うぜ烈児。周りをよく見てみるんだな。

「そんなバカな? お前、一体何をした?」

 烈児が驚くのも無理はない。水酸化ナトリウムの煙は、もう消えている。
 俺が水を発射し、水酸化ナトリウムを水に吸収させた。だから煙が消えた。

「さあ、今度はお前がどうする番だぜ。この液体が全部、お前に向かうぜ? どうやって防御するんだ?」
「く、クソめ!」

 俺はてっきり、酸性の液体を出して中和すると思っていたが、違った。烈児は反転し、廊下を走って逃げだした。

「やけになってるのはお前の方じゃねえかよ!」

 追いかけるか? いや、遠慮しておこう。烈児の戦略的撤退かもしれない。今後ろを追っては、思うつぼ…。烈児の策にはまるより、俺の策に引っ掛けろ!
 俺も反転した。そして歩き出すつもりだ。そうすればいずれ校内で、出くわす。勝負はその時だ。出会い頭に水を発射。俺も備えておかなければいけないが、烈児もそう簡単には避けられないはずだ。

 俺は水道水が入っている片方の水鉄砲の中身を半分捨てた。そしてさっき生み出された水酸化ナトリウム水溶液を代わりに入れた。濃度は薄めたから、多少肌にかかっても問題はないだろう。というかこれは、烈児に向かって撃つつもりはない。

 もう一方の海水が入っている銃で、水の球をいつでも作れるようにしておく。

「さあ行くぜ。首を洗って待ってろよ、烈児!」

 俺も走り出した。
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