第4話

文字数 3,351文字

ある日、教室に着くと私の席がクラスの男子達に陣取られている。女の子達は比較的、私を腫れ物みたいに扱って、あまり近づいて来たりしない。反対に男子は好奇心?か分からないけど変な絡み方をしてくる事がある。たまたまかも知れないけれど。……ホームルームまで時間もあるし、1度外に出よう。図書館にでも行けば時間も潰せる。私はドアの前でくるりとUターンした。するとそこに丁度、教室へ入ってこようとする夏野くんが居た。
「おはよう、川島さん。入らないの?」
彼はいつもの様に挨拶してくれたが、私は1人パニックになってしまう。何故今話しかけるの!?話しかけられた事によって、教室の中の生徒達がこちらに注目しているのが分かる。背中に周囲の視線が集まる中、私は完全に固まってしまった。
「…?あ、お前ら川島さん来たからそこ邪魔だぞー」
「あ、悪い悪い」
「ごめんなー」
男子たちの形だけの謝罪が聞こえてくる。夏野くんは私を通り越して自分の席へ行ったので、仕方なく私もそのまま席に向かった。…焦った。何余計な事してくれているのという気持ちもあるけれど、とりあえずは感謝だ。
『…あ、ありがとう。』
「んー?うん?」
この人絶対に何のお礼か理解していないと思う。まぁ、その位の方が有難いけどね。

「あ、そういえば一昨日の放課後運動場来てた?」
いつものように、会話が始まる。運動場に私が居たの、気づいていたのか。
『うん。たまたま。サッカー部なの知らなかった。』
サッカー部顧問である担任と仲良いのはそういう事か。と今更理解する。
「俺、目合った気がしたんだけど気のせい?」
『………まあ、合った気はしたけど』
あれは、自分だと思ったら負け…というか。
「手振ろうと思ったのに、すぐどこか行っちゃったからさ。」
……ずるい事ばかり言う人だ。本当。おそらく、性別年齢関係なくこの感じだと思う。全人類たらしという奴だ。はー怖い怖い。心が振り動かされてしまう。
『……』
黙り込んで睨む私を、彼は不思議そうに見つめる。
「どうした?」
『ううん、別に?あ、先生来たよ。』
彼にほら、と前を向く様に促すと小声ではーい、と言いながら前を向いた。横目で見える彼は少し口角が下がって不満げだ。先生の長ったらしい連絡事項が一瞬に感じる、変な朝だった。

家に帰ると、軒先で涼雅くんが掃除をしていた。
『涼雅くんやっほー。』
「お!桃菜ちゃん、今日もおつかれだね。」
『疲れた。本当大変だね、高校生って』
「はは、そうだね。あ…今日の髪型自分でやったの?」
『そう!可愛いよね。今日上手く出来たんだ。』
「うん。似合うね。」
美容師の涼雅くんに褒められた日は嬉しい気持ちになる。今日はいい日だな。
『ありがと!仕事頑張ってね。』
「うん。ありがとう!」
ひらひらと手を振って自分の部屋に向かう。ベットに飛び込んで、だらだらとスマホを見ているとふと連絡が届いた。さなからだ。「今からカラオケ行くけど来ない?」だって。『どこのカラオケ?』「佳菜子と会うから、佳菜子の家の駅の近く!」あ。佳菜子か。私達の中学の頃の友人だ。とりあえず、財布とスマホ持って駅に向かおう。帰ってきたばかりだが、制服のまま家を出て駅へ向かう。
「あれ、出かけるの?」
つい先程会った涼雅くんが不思議そうに聞いてくる。
『うん、さなとかとカラオケ行くの!行ってきます!』
カラオケへ行くのが久しぶりで、少し気分が上がってしまう。そこからは早足で駅まで進んだ。徒歩圏内なの、本当にありがたい。まぁ、遊びに行く相手が居たらもっと良いんだろうけど。駅に着くと、さなはもう改札前で待っていた。
『やっほー。待った?』
「んー、ちょっと!あ、1分後に電車来るよ!行こう!」
さなが走って改札を通る。私もそれに続いて、改札を通り階段を駆け上がる。階段を登ったと同時に電車が到着した。危ないところだった。
「ナイスタイミングだね!」
『うん。』
私は久々に全力で走った為、一言返すので精一杯だった。電車に乗ると、空席があるので2人で座る。息を整えようと静かに深呼吸なんかをしていると、いつのまにが目的駅まで着いていた。電車を降りて横を見ると、さなが少し笑っている。
『…何?』
「隣で、ずっと必死な顔で呼吸控えめにしようと頑張ってる桃菜の顔が面白くて!ごめんね!笑うわ!」
『はいはいそうですか。…ほら、佳菜子のとこ行くよ!』
「はーい。」

まだ半笑いのさなを引き連れて、集合場所として知らされていたコンビニの前へ向かう。初めてこの駅に降りたが、辺りは少し寂れていて煙草の匂いがする。こんな雰囲気なんだ。知らなかった。
「あ、さな!桃菜!久しぶり!」
『佳菜子!』
「わーい佳菜子だ!久しぶり!」
2人して方向感覚に自信がないので、佳菜子とすぐに合流できて、少し安心する。そのまま3人でカラオケへ向かう。到着して、数曲歌った後少し休憩しながら近況を話し合う。
「最近、彼氏できました!」
「えーおめでとう!あの佳菜子が!?」
「ちょ、どういう意味!?」
「佳菜子の理想が高いから!って意味だよ!」
そのまま話が盛り上がりすぎて、3時間ほど経ってしまった。
「お腹すいたね〜」
「ファミレスでも行く?」
『行く。お腹すいた。』
空腹は本当に大敵。お腹が空くと力出ないよね。カラオケを出て、少し歩いたところにあるファミレスへ入る。夜ご飯を食べながらまた何時間も雑談して、その場で解散になった。佳菜子は駅までの帰り道を心配していたが、私達もさすがにそこまでは頼まなかった。行きもちゃんと来られたし。駅から近いし。……………少し薄暗いのが怖いくらいで。
「これ変な路地入ったらやばいんじゃない?気をつけよう?」
『うん。本当にそうだよ。』
珍しくさなも真面目な顔をしている。公園やコンビニ前には屯している男子達がちらほら見える。私達の地域ではあまり見かけない光景かもしれない。…びくびくしているのが周りに伝わったらいけない。堂々と歩いていよう。2人で、しっかり地図を見ながら…その時点で、地元がここではない事が丸分かりな事までは私達は考えられていなかったんだけど…………。

「おいそこの奴ら」
……嫌な予感。…振り返る?…振り返らず逃げる?いや、でも…。色々と私が考えている内に、現れた5人ほどの集団は私達の前に立っている。
地元(ここ)のヤツじゃねえな?何してる」
…いや、ここのヤツじゃないから家に帰ろうとしてるんですよ。なんて絶対口には出せないけど。
「友達と遊んでて、今から帰るんです!」
そう答えるさなの真っ直ぐさが、吉と出るか凶と出るか…。私はゆっくりと唾を飲み込む。
「ふーんそうか。じゃあ俺らともちょっと遊んでいこうや。」
…あ、やばい方に転んだ。これ。私はすぐにさなの腕を掴んで走ろうとしたが、高校生らしき男5人に囲まれていてはさすがに逃げられない。腕を引っ張られて、無理矢理暗い路地に連れ込まれそうになる。
「やめてください!!」
『離して!』
2人で抵抗するもびくともしない。…どうやってこの危機的状況を打破するか、警察へどうやって連絡するかと頭を張り巡らせながらも半分諦めていた時。
「おい!お前ら何やってんだ。」
遠くから怒鳴り声と足音が聞こえてきた。
「面倒くせぇのが来たな。」
私の腕を掴んでいる人がボソッと呟いている。
「何だ?芦田。」
芦田と呼ばれた人の顔を見ると、目が合う。
『助け…』
「助けて!」
喉が締まり、声が掠れる。そんな私達に
「…すぐ助けます」
しっかりと目を見て伝えてくれた。隣に居るさなが、私にしか聞こえない声で
「信じるしかないね。」
『……うん。』
直感だが私達の勘は、彼を信じろと言っていた。だがその間に、
「あ?調子乗んじゃねーよ!」
1人が、芦田くんに襲いかかる。…突っ立ってるけれど大丈夫かな。男の拳が彼の頬に触れる!と思った瞬間。
「待った!!!」
と誰かの澄んだ声が夜の街に響く。その瞬間拳の勢いは弱まったが、芦田くんの頬にしっかりと当たった。鈍い音が路地に響く。…避けないのか。芦田くんの頬は赤く、鼻からは血が出ている。
「警察に通報した。これ以上やっても無駄だ。」
男達に毅然とした態度でその人が告げると、
「くそっ。一旦撤収するぞ!」
すぐ男達は去っていった。そして突然現れた声の主は、


『……夏、野君?』
「…え、川島さん!?」
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