第2話

文字数 993文字

始業式後の帰宅途中、後ろからさなに突然抱きつかれる。
「桃菜〜!クラスまた離れちゃったね」
『ね、残念』
本当に。さながいたらどれ程心強いか。
「…また登下校一緒にしよ!家も行くし!髪も切ってもらうし!」
『うん、待ってるね』
そんな会話をしていると、さなの家に着いたので手を振って別れる。私はまた1人で歩き出す。

…私の父は美容師だ。父が経営する店が1階にあり、2階と3階が家。さなもよくお客さんとして来てくれる。あ、家が見えてきた。1階の電気が付いている。今日は休業日のはずだけど。
立ち止まって中を覗いてみると、人がいる様だ。
『こんにちは。あ、』
「お、桃菜ちゃん!おかえり。始業式どうだった?」
この店で働く長浜涼雅くん。私の従兄弟でもある。歳も20歳と17歳で近くて、学校の話もよく聞いてくれる。
『ダメダメだよ……分かってるくせに。』
むすっとしてみせると、涼雅くんは困った様に眉を下げた。
「そっか…。桃菜ちゃんこんな素敵な子なのにね?」
『ほんとにそうだよ、そうだと信じたい…』
彼のフォローに真顔で返答すると、数秒間静寂が続く。
「…まぁ、桃菜ちゃんはそのままでいいと思うよ。」
『本当かな……』
ははは、と笑いながらその場を後にし、2階の自分の部屋に向かった。

数日後、先生から正式に席の交代が認められて夏野君が隣になった。この事がきっかけで、私の日常が少し騒がしくなってきた。
廊下ですれ違う時は「やっほー」と軽く声をかけてくるし、授業中も「これ分かる?」「教科書見せてください…」とか話しかけてくる。5分程の休憩だと席に着いたまま私に話しかけてくるし。その雑談が大分はちゃめちゃで、面白いのがまたずるい所。2人で話していると、大抵明るい空気感が広がって気付いたら周りに人が集まってくる。悪い人じゃないだろう。知り合って数日でもひしひしと伝わってくる。羨ましくなって、嫉妬してしまう様な人だけど。

段々新学期最初の忙しなさは落ち着いてきたけど、私は相変わらず1人。自分から話しかけたりもしたけれど2回目は何故か目を合わせてくれない子が多い。…夏野君は別として。私のオアシスは中学の頃の友人達だけ………と言っても皆それぞれ別の友達が居るから、新学期に頼りきりにはなれない。
1人で過ごすのが苦痛な訳ではなくて、どちらかというと好きな方だ。それにしても、最近声を発する機会が明らかに少なくて危機を感じている。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み