29
文字数 410文字
黒い岩と岩の間に、黒い水が溜まっている。
何かが跳ねたのか、ぽちゃーんという音がした。水銀の滴が水面を打ったような、高く澄んだ音だ。
岩の一つにナミは座り、片足を立てて膝を胸元に引き寄せ、顎を乗せている。伏せた長い睫毛が瞳の表情を隠していた。
遠くのほうから、声が響いた。
「ナミィ……」
低いがよく通る声だ。けれど声の主は姿を見せない。うんと遠くのどこかにいるのか、闇の中すぐ近くにいるのか。
「ナミ……」
声が大きくなった。目を伏せたまま、ナミは微動だにしない。
「ナミ……今回は私の勝ちだろう」
姿を現さないまま、闇の奥からナキが言った。
「……そうとは言えない。男は最後に違うことを言った。それで女の気が変わった」
またぽちゃーんと音がした。
「……ナミ、私が悪かった。もう許してくれ……」
闇の間から、ナキが姿を現した。
「ナミ……」
「来るな‼」
ナミが鋭く叫んだ。ナキの姿は闇に消えた。
辺りは再び、静寂に包まれた。
何かが跳ねたのか、ぽちゃーんという音がした。水銀の滴が水面を打ったような、高く澄んだ音だ。
岩の一つにナミは座り、片足を立てて膝を胸元に引き寄せ、顎を乗せている。伏せた長い睫毛が瞳の表情を隠していた。
遠くのほうから、声が響いた。
「ナミィ……」
低いがよく通る声だ。けれど声の主は姿を見せない。うんと遠くのどこかにいるのか、闇の中すぐ近くにいるのか。
「ナミ……」
声が大きくなった。目を伏せたまま、ナミは微動だにしない。
「ナミ……今回は私の勝ちだろう」
姿を現さないまま、闇の奥からナキが言った。
「……そうとは言えない。男は最後に違うことを言った。それで女の気が変わった」
またぽちゃーんと音がした。
「……ナミ、私が悪かった。もう許してくれ……」
闇の間から、ナキが姿を現した。
「ナミ……」
「来るな‼」
ナミが鋭く叫んだ。ナキの姿は闇に消えた。
辺りは再び、静寂に包まれた。