第4話  山岸T 3

文字数 733文字

「こんにちは。東雲君」
山岸Tは言った。

僕は頭を下げた。
「先生。仕事、終わりですか?早いですね」
僕は言った。
「ああ。ちょっと今日は子供の学校の授業参観があったので」

彼のお子さんは、近所の公立小学校に通っている。
男の子で小学4年生だった。
自分でそう言っていた。「僕は小学校4年生です」って。
小柄だが元気のいい男の子である。


序に奥さんも知っている。僕の通っている近所の歯医者で受付をしている。
山岸Tがイケてる男の見本みたいな人なのに対して奥さんは、こう言っては何だが、まあまあである。ごっつい体で四角い顔をしている。高校時代は「砲丸投げの国体選手」だったと言っていた。
歯医者に行った時に僕は聞いた。
如何にも「えいや!!」と叫んで砲丸を15メートル位、投げそうな感じである。
子供も奥さんに似たのか四角い顔をしている。
一度、三人で歩いている所に出会った。
山岸Tは会釈をして、僕を奥さんと子供に紹介した。
僕は顔見知りのオバちゃんが山岸Tの奥様と知って驚いた。


僕と山岸T達は歩きながら話をした。
「東雲君は、6月に転校して来たのですね」
「そうです」
「君はみんなに馴染むのが早い。まるでずっとここにいたみたいです。適応能力が素晴らしい」
彼は微笑んで言った。
僕は「有難う御座います」と笑った。

暫く黙って歩く。

「故郷の皆さんは元気でしょうか?」
山岸Tは何気なくそう言った。
僕は立ち止まった。
山岸Tも立ち止まる。
お互いがお互いの顔を見る。

「故郷って・・鹿児島の事ですか?」
僕は尋ねた。

僕は父の仕事の関係で鹿児島から転入して来たのである。
山岸Tは首を傾げる。
そして公園のベンチを指差した。
「ちょっと、座って話をしませんか」
そう言って、公園に入って行った。僕はその後姿を見ていたが、後に続いた。
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