第25話  失楽園

文字数 1,103文字

「失楽園」の講義を聞いた。
勿論、エロい方ではない。

人間が神の教えを守らないで、知恵の実「りんご」を食べてしまったから、アダムとイブは楽園を追い出されたと。彼らはそれで荒野を彷徨う様になった。
楽園は永遠に失われた。
それは一体どこにあったのだろうか?
もしかしたら他の星に?

アダムとイブは宇宙船に乗せられて、流刑地に送られたのだろうか?
それとも父の様に志願してやって来たのだろうか?

だが、ここは流刑地であると同時に楽園でもあったのだ。
命の楽園。生命の揺り籠。美しい地球。
そして同時に荒れ果てた荒野であり、ある意味地獄でも。
どうして?

それを思考する知性はこうも言った。
天国の裏側が地獄だと。
天国を裏側から見ると地獄だと。

女性は出産の苦しみを味わい、男は食うために労働を余儀なくされる。
男達は戦争に行き、人々は喪失の哀しみを知るようになった。
死と悪は常に身近に在り、人々はそれから逃れる事が出来なくなった。

獣の様な鋭い爪も牙も無く、暖かい毛皮を纏う訳でもない。
カツオノエボシの様に強力な毒をもっている訳でもない。
彼らの唯一の武器は「知恵」。それだけ。

「知恵」は両刃のナイフだ。
他人も切るが自分も傷付ける。
それが「善」と「悪」を創る。
いや、その「善」と『悪」の境界さえ曖昧にして。
寧ろグレーゾーンだらけ。めちゃくちゃグレーゾーン。
「善」を裏から見ると「悪」なのかも知れない。
同様に「悪」を裏側から見ると「善」だったりして。
「楽園」を美しいと感じ、それを創ろうとするのも「知性」だし、地獄を創り出すのもやはり「知性」なのだ。

果たして「最後の審判」ではちゃんと平等に、誰もが納得のいくように審判してくれるのだろうか?
納得がいかなくて苦情を申し立てたら、その審議でこれまた永遠の時が過ぎるのでは無いのだろうか。それとも苦情など即却下なのだろうか。
そうだよな・・。神様だもの。
揺るぎない善悪の価値基準があるよな。
最後の審判のその前に「弥勒の世」が来てくれないかな・・・。


神様はひとつ忘れた事がある。
僕は父と山岸Tの話を聞いて思った。

人間の知恵と好奇心にストッパーをかけ忘れたのだ。
サーモスタット的な。
行き過ぎを止める様な。

きっと神様は怒りに心を奪われ、それをし忘れたのだ。
慈しんで大切にしたはずのアダムとイブが悪魔にまんまと騙されたから。

だから、ヒトは小さな太陽を作ってみたり、シャトルを飛ばしたり、ワープ航法を開発して時空を超えてみたり、反物質で爆弾を作ってみたり、挙句の果てには、コスパが良いと言う理由で電波に乗ったりするのだ。

それはどこまで続くのだろうか。それに果ては有るのだろうか。
僕は山岸Tの顔を見ながらそう思った。
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