急展開の話

文字数 1,007文字

その後も何回か隠れ家バーで結人(ゆいと)くんと遭遇した。
お互いに連絡先交換したにも関わらず、[今日お店来るー?]などとはメッセージアプリで聞かず、偶然お店で会ったらたわいも無いことをお喋りする、というようなことが続いた。

ある日、隠れ家バーで私がお酒を飲みながら「今度、このお店の近くで好きなバンドがライブやるんで行こうと思ってるんです」と口にしたことがあった。
「へぇー、そうなんだ、良いねぇ」
カウンターから千尋さんが言った直後に、結人くんが「え、俺も(あおい)ちゃんの好きなバンドのライブ行きたい」と身を乗り出してきた。
同じ店内にいた常連の咲子(さきこ)さんもライブに興味があるということで、三人で私の好きなバンドのライブを見に行くことになった。
チケットを手配し、日が近くなったら待ち合わせ場所など決めることにした。
トントン拍子に話が進んで、ふわふわ気持ちが宙に浮いてるみたいだ。
いつもの隠れ家バー以外で結人くんと会うのは初めてのこと。
私の好きな音楽も気に入ってもらえるだろうか。
無駄にドキドキしてしまう。

咲子さんは隠れ家バーから少し遠い、郊外の駅に住んでいるので早い時間にお店を出ていった。
私はいつもの23時過ぎにお店を出て駅に向かう。
結人くんも「俺も一緒に帰るー」と言って駅まで並んで歩いた。
「結人くんは好きな物とかある?趣味とか…」
知らないことばかりなので、気になったことを質問してみた。
「俺、写真好きでカメラとか」
「え!!すごい!良いなぁ」
「葵ちゃん、写真好きなん?」
「なんか素敵な場面を切り取れるっていいなぁって思って。自分でもやってみたいけど、詳しくないからカメラどんなの選んだらいいかわかんなくて」
「そしたら、今度カメラ探しに行きたくなったら言って、一緒に見に行こ」
結人くんはこっちを見ながら微笑んだ。
「逆に葵ちゃんは?得意なもの何?」
言葉に詰まってしまった。
私の得意なものって…なんだろ…
「えっと、学生時代にバイトしてたからコーヒー淹れるのはできる…かも…」
「え!葵ちゃん、すごいな!」
今度は結人くんが大きな声をあげた。
「俺な、この前会社の人に良いコーヒー豆とケトルもらって自分でドリップしたいけど何買えばいいかわかんなくて」
「え、そうなの??必要な器具とかなら教えられると思うよ」
「…葵ちゃん、今度ライブ行く前にコーヒー器具買いに行くの付き合ってくれへん?」

ライブ前に二人で出かける予定ができた。
予定は三週間後に迫っている。
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