下見の話

文字数 890文字

結人(ゆいと)くんとお買い物の予定が決まってから、私の下調べが始まった。
仕事帰りに繁華街へ向かう。
いくつかキッチン用品が充実している雑貨屋さんを回ったが、いまいちピンと来るものがなかった。
コーヒー器具、ゼロからすべて揃えようとするとなかなか難しい。
ポットやカップなどはすぐに見つかったが、ちょうどいいサイズのドリッパーやサーバーを探すのに手こずってしまった。
可愛くてオシャレなのもいいが、初心者ならデザインよりもまずは使いやすいものの方が良いだろう。
結人くんは朝にコーヒーを飲みながら煙草を吸う、と言っていた。
毎日使えそうなシンプルなものを探すことにした。

さらにいくつか店舗をハシゴして、駅前の大きなホームセンターを見に行くことにした。
ホームセンターも最近はおうち時間が増えたせいで、キッチン用品に力を入れているところが多い。
エスカレーターを上がり、キッチン用品のフロアを目指した。
エスカレーターを降りてすぐ、ちょうど新生活応援キャンペーンということで「おうちでコーヒー淹れてみませんか?」というPOPが目に入ってきた。
ここなら、全部揃っているかも。
私は陳列棚を丁寧に見ていく。
一般的なコーヒー器具の他に、フィルターやコーヒー豆も販売されていた。
結人くんとお買い物はここに来よう、と決めた。
欲しかったものが全部ここで手に入る。
私は下見チェックが無事に終わったという安心感で、ニコニコしながらエスカレーターを降りた。

そして、4月最初の土曜日。
とうとうその日がやってきた。
私は早めに待ち合わせ場所に着いた。
[いま、着いたよ。改札口の近くで待ってるね]
メッセージを送って返事が来るのを待つ。
[了解、もうすぐ駅着くー。あ、着いたから改札向かうわ]
待ち合わせ時間は12時だったが、結人くんが連絡をくれたのは11時55分だった。
なるほど、時間はちゃんと守れる人みたいだ。
人がいっぱいのターミナル駅で待ち合わせしているから、見つけられるかな…?と一瞬不安に思ったがまったく問題なかった。

(あおい)ちゃん、おはよう!」
結人くんが手を振って現れた。
私は言葉が出なかった。
彼はぶっ飛んだ私服センスの持ち主だったのだ。
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