第3話 大逆転! バレンタインの陰謀

文字数 823文字

 【起】
蘭田(らんだ)家は江戸時代から続く医者一族で、現在は眼科を営んでいる。実は蘭田家には、一族の子どもの願いを、四年に一度ずつ叶えてくれる妖怪、願叶(がんかのう)が住み着いている。四歳、八歳、十二歳、十六歳、そして二十歳。そこでおしまいだ。だから蘭田家は代々、二浪までで必ず医学部に入学できているのだが、これは内緒である。さて令和の現在、蘭田家の次男、鏡介(きょうすけ)は小学六年生の男子だ。目下の悩みは、これまで女子からバレンタインデーのチョコレートをもらったことがないことだった。
 【承】
鏡介は十二歳の今、願叶にこれを叶えてもらうことにした。願叶は現実的な妖怪で、願い事は一か月前までに伝えなくてはならない。それでどんな手段を使っているのか分からないが、きちんと叶えてくれるのだ。一月十三日に願叶を呼び出して、願いを伝えた。二月になって願叶は小さな瓶を持って現れた。この目薬をつけた後、最初に見た人を一か月間は好きになるのだという。
 【転】
二月。スギ花粉が飛び始める時期である。蘭田眼科にもクラスの女子が診察を受けに来るのだ。それに気が付いた鏡介は、クラスメイトに自分が目薬のさし方を指導するということにして、待合で彼女たちに会えるよう父に取り入った。クラスの女子は九人来たのだが、何人に成功したかは分からなかった。そして、二月十四日、学校でチョコレートをもらうことができた。何と、七個も。クラスの男子では一番多かった。とりあえずチョコをゲットすることだけを考えていた鏡介は、優先順位を付けられない。それで一日のうちに七人からのチョコレートを独りで食べ尽くした。
 【結】
そして虫歯になった。近所にある抜場(ぬきば)歯科。同級生矯子(きょうこ)の家である。治療のため、ここに通うことになった。実は矯子は幼稚園のころから鏡介を思い続けていた。今年こそ、チョコレートを渡して思いを伝えたい。それだけでは不安で、クラスの子たちに協力を依頼した。鏡介を虫歯にして、自宅の歯科に通わせようという計画だった――。
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