第1話 おけいちゃんを救え!

文字数 1,005文字

【起】
布藤(ぬのふじ)純、小学四年生の男子。地元不動産屋さんの長男で、その仕事に興味がある。そして地縛霊と会話ができるという能力を持っていた。
ある日の学校からの帰り道。戦前からあったであろう空き家が取り壊され、更地になっていることに純は気が付いた。侵入してみると石で囲われた泉があった。手を入れると結構冷たい。その時、聞こえてしまった。
【承】
まだ江戸時代のことだった。この泉は道行く人や馬の喉を潤し、地元の人がスイカを冷やすときなどに使われていた。そこに十歳の女の子が顔を突っ込まれて命を落としたようだ。その子の霊が地縛霊となっていて、江戸から明治大正を経てこの泉を囲うように建てられた古い住宅が壊され、約百年ぶりに日の目をみたのだった。そしてここを埋めて、新しい宅地を作る計画を、ある業者がたてたのだという。泉が埋められると地縛霊であるおけいは行き場を失い、おそらくここに住む人を呪い殺してしまうだろう、というのだ。おけいは霊であるが優しい女の子だ。人を殺したりはしたくないのだという。
【転】
そこで純は父に相談した。父によると、あの土地は市内最大手の大口開発が、古い地主からあの土地を買い取るらしい。地主は跡継ぎのいないご隠居だという。建物が既に壊されているので、もうあそこは大口開発のものかもしれないが、更地にしてから契約を結ぶこともあるので、今の所有者がどちらかは分からない。
純の能力については父も承知しているので、話を聞いた父はなんとかしたいと思い、旧知だった地主さんを訪ねた。地主さんはあの泉を埋めることは忍びないが、時代の流れで仕方がないと考えている。そして、契約は来週に行われるということだった。
父は地元の他の不動産屋さんや建築会社と協力し、泉を活かした分譲地の造成案をつくり、地主さんに提出してくれた。そして大口開発から布藤連合に、開発の主体が移ることになった。純はクラスメイトでお寺の跡取りである蓮空にも相談し、売買契約の日におけいの供養が行われた。
【結】
泉を中心とした美しい分譲地が完成した。その両側に宅地を配置した。土地の形が四角形ではないので価値が下がるという問題もあったが、水の潤いと歴史を守る取り組みとして評価され、買い手がすぐについた。おけいはその後もその区画を守る守護霊として存在しているが、もう純とは話ができなくなってしまった。五年生になった純は、この宅地を通るたびに、おけいを思い出す。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み