第4話 秋のバラ公園
文字数 1,277文字
秋の校外学習で、3年生の湖音たちの学年は、希望ヶ丘のバラ公園に来ていた。
お昼の時間になって、湖音は雪乃ちゃんが持って来たビニールシートに一緒に座った。
咲ちゃんと宇奈ちゃんが、キャラ弁を見て回っている。
「雪乃ちゃんのカニさんウインナーかわいい!」
湖音が隣から覗くと、タテに半分切ったウインナーの両サイドに4本の切り目が入っていて、からだの部分や目も上手に作ってあった。
湖音はキティちゃんの弁当袋から、ラップにくるんだおにぎりを取り出した。
「でかっ! 湖音のおにぎり」
宇奈ちゃんが大きな声をあげた。
「えへっ、栗ごはんのおにぎりだよ」
正子さんが作ってくれた特大おにぎりだ。それをふたつ持ってきている。
大きな口を開けて、がぶっと噛んだ。ほっくりとした栗の甘さが鼻の奥にまで届く。
「いっぱい、お口に入れ過ぎ」
雪乃ちゃんは、お箸の先にちょっぴり載せたごはんを口に運んだ。
咲ちゃんとふざけ合っていた宇奈ちゃんの膝が湖音の肩に当たった。
手からおにぎりが落ちた。
「ごめんね、湖音。でも咲が悪いんだよ」
「いいよ、いいよ」
そう言って湖音は落ちたおにぎりを拾った。
草の上だったので、土や砂は付いていない。
「汚なーい。そんなの食べるの?」
宇奈ちゃんがびっくりした顔で言った。
「でも、こうすればきれいだよ」
湖音は黄色い栗の上に付いていた黒っぽい筋のようなものを爪で払った。
宇奈ちゃんと咲ちゃんが口を開けたまま顔をしかめている。
雪乃ちゃんの目も汚いと言っている。
正子さんは、湖音がテーブルの下にごはんを落とした時、
「食べても、死んだりしないよ」と笑う。
だから、湖音は平気で口に戻すようになった。
湖音は拾ったおにぎりをラップにくるんで、近くにあったゴミカゴに捨てた。
それから雪乃ちゃんの隣に戻って、二個目を取り出した。
おにぎりを、ちょっとだけ口に入れて噛んだ。なんだか美味しくない。
息が苦しくなって左手で胸をたたいた。胸の中に石でも詰まったようだった。
「いっぱいお口に入れるから、喉が詰まるんだよ」
雪乃ちゃんが背中をさすってくれた。
湖音はおにぎりを食べ続けた。
*
出発の時間になって、1組からバラのトンネルに入っていく。
湖音はゴミカゴをチラチラ見ていた。みんなが紙袋や包装紙を捨てたので山盛りになっている。じっとしていられなくて、湖音はその場で足踏みをした。
「湖音おかしいよ。焦りすぎ」
雪乃ちゃんが両手で、湖音の手を握った。
「早く行きたいの」
湖音はここから逃げ出したかった。
ようやく湖音たちの番になったので、雪乃ちゃんを引っ張るようにしてバラのトンネルに入った。
真っ赤なバラや黄色いバラの花に囲まれて、湖音は黙ったまま歩いた。
全身が、まるでバラのトゲで刺されているようにチクチクと痛い。
トンネルを抜けると、湖音は立ち止まった。
落としたことを正子さんに言って、謝ることは出来る。
でも、捨てて帰ることは……出来ない。
湖音は、雪乃ちゃんの手を離した。
「忘れ物をしたの。取ってくる」
そう言って、トゲの中に駆け出した。
お昼の時間になって、湖音は雪乃ちゃんが持って来たビニールシートに一緒に座った。
咲ちゃんと宇奈ちゃんが、キャラ弁を見て回っている。
「雪乃ちゃんのカニさんウインナーかわいい!」
湖音が隣から覗くと、タテに半分切ったウインナーの両サイドに4本の切り目が入っていて、からだの部分や目も上手に作ってあった。
湖音はキティちゃんの弁当袋から、ラップにくるんだおにぎりを取り出した。
「でかっ! 湖音のおにぎり」
宇奈ちゃんが大きな声をあげた。
「えへっ、栗ごはんのおにぎりだよ」
正子さんが作ってくれた特大おにぎりだ。それをふたつ持ってきている。
大きな口を開けて、がぶっと噛んだ。ほっくりとした栗の甘さが鼻の奥にまで届く。
「いっぱい、お口に入れ過ぎ」
雪乃ちゃんは、お箸の先にちょっぴり載せたごはんを口に運んだ。
咲ちゃんとふざけ合っていた宇奈ちゃんの膝が湖音の肩に当たった。
手からおにぎりが落ちた。
「ごめんね、湖音。でも咲が悪いんだよ」
「いいよ、いいよ」
そう言って湖音は落ちたおにぎりを拾った。
草の上だったので、土や砂は付いていない。
「汚なーい。そんなの食べるの?」
宇奈ちゃんがびっくりした顔で言った。
「でも、こうすればきれいだよ」
湖音は黄色い栗の上に付いていた黒っぽい筋のようなものを爪で払った。
宇奈ちゃんと咲ちゃんが口を開けたまま顔をしかめている。
雪乃ちゃんの目も汚いと言っている。
正子さんは、湖音がテーブルの下にごはんを落とした時、
「食べても、死んだりしないよ」と笑う。
だから、湖音は平気で口に戻すようになった。
湖音は拾ったおにぎりをラップにくるんで、近くにあったゴミカゴに捨てた。
それから雪乃ちゃんの隣に戻って、二個目を取り出した。
おにぎりを、ちょっとだけ口に入れて噛んだ。なんだか美味しくない。
息が苦しくなって左手で胸をたたいた。胸の中に石でも詰まったようだった。
「いっぱいお口に入れるから、喉が詰まるんだよ」
雪乃ちゃんが背中をさすってくれた。
湖音はおにぎりを食べ続けた。
*
出発の時間になって、1組からバラのトンネルに入っていく。
湖音はゴミカゴをチラチラ見ていた。みんなが紙袋や包装紙を捨てたので山盛りになっている。じっとしていられなくて、湖音はその場で足踏みをした。
「湖音おかしいよ。焦りすぎ」
雪乃ちゃんが両手で、湖音の手を握った。
「早く行きたいの」
湖音はここから逃げ出したかった。
ようやく湖音たちの番になったので、雪乃ちゃんを引っ張るようにしてバラのトンネルに入った。
真っ赤なバラや黄色いバラの花に囲まれて、湖音は黙ったまま歩いた。
全身が、まるでバラのトゲで刺されているようにチクチクと痛い。
トンネルを抜けると、湖音は立ち止まった。
落としたことを正子さんに言って、謝ることは出来る。
でも、捨てて帰ることは……出来ない。
湖音は、雪乃ちゃんの手を離した。
「忘れ物をしたの。取ってくる」
そう言って、トゲの中に駆け出した。