13.尽きない悩みのタネ(4)

文字数 1,638文字

 ーー家の用事? 実家……って。

 そもそも鳴海くんの実家ってどこなんだろう?

 場所とか。今までに聞いた事がない。

【そうなんだ…。うん、分かった】

 短文を書いて送ってから、もう一通文字を打つ。

【あの。実家って遠いの?】

 ”家の用事”も気になったが、とりあえずこれだけを聞く事にした。

【ううん、隣りの県だし、電車で二時間ぐらいだからそんなに遠くは無いよ(^ ^)】

 ーーそうなんだ。

 スマホを握り締め、暫し考える。

 やっぱり、”家の用事”が何か気になっていた。言い換えると家庭の事情ってやつだ。

 ーー家の用事って言うぐらいだから、親戚関係の冠婚葬祭、とか?

 二日休むって言ってるんだから、当然実家に泊まってくるんだよね?

 あ。でも、鳴海くんは親が離婚してて、実家にはお母さんだけだから……実は定期的にお父さんと会ってる、とか?

 そう考えたところで、うーんと頭を抱え込んだ。

 ーー今思えば私……、鳴海くんについて何にも知らないんじゃないの? それって彼女としてはどうなんだろう?

 一度閉じたスマホをまた点けて、メッセージを打ち込んだ。

【ちなみに。家の用事って何か聞いても良いかな? ごめんね。気になっちゃって…】

 あれこれ推測して考えるのが嫌で、率直に尋ねる事にした。

「沙耶、どうしたの?」

「え……っ??」

 びっくりして顔を上げると、母が父のグラスをシンクに下げていた。

「何か難しそうな顔してたけど……」

「例の彼?」と父に聞こえないよう、母は声を潜めた。

「え、あぁ。うん、ちょっと。別に大した事じゃないんだけど。 明日とあさって学校休むって言ってるからどうしたのかなって」

「そう。……病気、じゃ無いのよね?」

「うん。あ、でもね。メールで理由聞いてるとこだから、大丈夫だよ。
 颯太寝たし、私もそろそろ二階(うえ)上がるね?」

 言いながら椅子を立つと、母は穏やかに微笑み、「あんまり気負わずにね?」と背中をポンと撫でてくれた。

 *

 メッセージの返事が届いたのは、翌朝、通勤電車に乗った時だった。

 アプリの通知音が鳴り、慌ててスマートフォンを確認する。

【おはよう、沙耶さん。ごめんね、まだ】

「……」

 ーーん? んん??

 ”ごめんね、まだ”……って、なに??

 明らかに打っている途中で間違って送ったメッセージだと分かる。とりあえず、続きが届くかもしれないと思ってそのまま待ってみる。

 けれど、結局のところ、学校に着いてもその続きは届かなかった。

 ーーなんなんだろう? 鳴海くんって実は秘密主義……?

「さ〜や〜ちゃん?」

「え……?」

「どうしたの? 何か悩み?」

 ーーあっ、うわっ!

 気付くと数人の学生たちがレジに並んでいた。

 声を掛けてくれた澤野くんのレジから始まり、六人目で一息つく。

 祥子さんは休憩室の扉を開放し、模造紙を巻いていた。

「もしかして、仁に会えないから恋煩い、とか〜?」

 まだそこにいた澤野くんが楽しそうにウヒョヒョと笑った。

「……澤野くん。愛梨ちゃんは?」

「え? ああ。買うもの買ったらさっさとうえあがっちゃった」

「……そうなんだ」

 ーーて言うか。愛梨ちゃんのレジをした覚えが無い。どれだけボーっとしてたんだ、私。

 エプロンのポケットに入れたスマホには、まだ鳴海くんからの連絡が届かない。

 ーーどうしようかな。後で電話してみようかな? でも、法事とかで取り込み中だったら申し訳ないし。

「あぁ〜、また入ってる入ってるっ」

「……え」

「悩みワールドに。沙耶ちゃん、マジで仁と何かあった?」

 ーー何か……。

 考えてから私は首を傾げた。

「あれ? 仁の事で悩んでるとばっかり思ったけど。違った?」

 私はのろのろと首を振り、あの、と彼に尋ねた。

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