8.気持ちが通じ合う幸せ(4)
文字数 1,594文字
「告白、嬉しかったの」
「え」
「凄く、凄く嬉しかった。だって私も鳴海くんが好きだから」
言ってから頬がカァッと熱くなった。
自己中心的かもしれない。でも、鳴海くんが悲しむ顔は見たくないの。
自分に言い訳をして、私はチラリと隣りを見た。鳴海くんは真顔で固まっていた。どうやらフリーズしているようだと思い、フッと笑みが漏れた。
「鳴海くん? おーい、大丈夫??」
目の前でパタパタと手を振ると、ようやくフリーズが解けたのか、しきりに瞬きをした。
「あの……、すす、好きっていうのは。その……?」
彼は自信無さげに、頼りなく立てた人差し指で自分を差していた。
「うん。ちゃんと言うね。私は鳴海くんが好きだから、お付き合いしたいと思ってる」
情けなく下がった眉の下で、丸い瞳が僅かに揺らいだ。あ、と口を半開きにして、彼は「マジで?」と呟いた。
「俺、学生だし。今はまだ働いてないけど……本当に良いの?」
「ふふっ、変な事言うんだね? 私に告白してくれた時は自信満々だったじゃない?」
「いや、アレは勢いって言うか…」
「次の日だって、余裕綽々 で私をからかってたけど?」
「それは。沙耶さんと二人っていうのが嬉しくて。
……俺、また沙耶さんと出会えたから凄く舞い上がってたんだ。だからいつも沙耶さんの事ばっか考えてたし、早く行動しないと誰かに取られるかもしれないって、焦ってた」
「……焦る必要ないよ? 私、モテないし」
「そんな事ないよ。俺のクラスの奴も、何人かは沙耶さんの事狙ってんだって。津島さんだってそうだったし」
私はそこで一旦黙り込んだ。
そういえば、津島さんに告白されたんだった。
「俺さ、告白してから時間が経つごとに……だんだん冷静になってきて。もしかしたら早まったんじゃないかって凄く後悔したんだ。だから、出来るだけ返事も先延ばしにして貰おうって、考えてて」
「……私が断ると思ってたの?」
鳴海くんは赤い顔で頷いた。
「沙耶さんが前に言ってたの、聞いちゃったから」
「聞いちゃったって。何を?」
「……え、と。恋愛するとしても、学生は絶対に無いって。結婚出来ないなら恋愛する意味も無いって」
そんな事言ったかな、と考えてふと思い当たる節にぶつかった。
「ああっ、前に祥子さんと話してた時だね? あの時は、確かにそう思ってた。私、前の恋愛で失敗したからさ。もう二度と好きな人なんて出来ないってそう思ってたし」
「……前の恋愛って。もしかして、颯太くんの……?」
父親、という言葉を飲み込み、鳴海くんが眉を寄せた。
「そう。二十歳の時……五つ上の人と付き合ってたんだけど。妊娠を告げた途端に堕胎のお金渡されて、逃げられたの」
鳴海くんは怪訝な顔で目を見開いた。
「……そいつ、クソだな…っ」
キッと地面を睨みつけ、憤っているのが見て取れる。こんな風に怒った顔を見るのは初めてだ。
「そうだね。私も薄情な人だなって、思った。だから、颯太は温かい子に育つようにって、私と、私の両親で愛情を注いでる」
「……そっか」
少しの間、お互いに沈黙していた。今後の事を話さなければいけないのに、何となく今の空気を味わっていたかった。
冬の夜風でザザザ、と葉音が響いた。
ーーやばいな。体、冷えてきちゃった。そろそろ帰らないと風邪をひくかも。
暗い夜空を見上げて、私は肩をさすった。
「……俺で良いの?」
「えっ?」
沈黙を破り、鳴海くんが私の目を覗き込んだ。
「沙耶さんの、その……。結婚相手、俺で良いの?」
ーー結婚相手。
それ、すなわち。旦那さま……だ。
私は、はにかみながら鳴海くんを見つめた。
「“で”じゃないよ」
「え」
「え」
「凄く、凄く嬉しかった。だって私も鳴海くんが好きだから」
言ってから頬がカァッと熱くなった。
自己中心的かもしれない。でも、鳴海くんが悲しむ顔は見たくないの。
自分に言い訳をして、私はチラリと隣りを見た。鳴海くんは真顔で固まっていた。どうやらフリーズしているようだと思い、フッと笑みが漏れた。
「鳴海くん? おーい、大丈夫??」
目の前でパタパタと手を振ると、ようやくフリーズが解けたのか、しきりに瞬きをした。
「あの……、すす、好きっていうのは。その……?」
彼は自信無さげに、頼りなく立てた人差し指で自分を差していた。
「うん。ちゃんと言うね。私は鳴海くんが好きだから、お付き合いしたいと思ってる」
情けなく下がった眉の下で、丸い瞳が僅かに揺らいだ。あ、と口を半開きにして、彼は「マジで?」と呟いた。
「俺、学生だし。今はまだ働いてないけど……本当に良いの?」
「ふふっ、変な事言うんだね? 私に告白してくれた時は自信満々だったじゃない?」
「いや、アレは勢いって言うか…」
「次の日だって、
「それは。沙耶さんと二人っていうのが嬉しくて。
……俺、また沙耶さんと出会えたから凄く舞い上がってたんだ。だからいつも沙耶さんの事ばっか考えてたし、早く行動しないと誰かに取られるかもしれないって、焦ってた」
「……焦る必要ないよ? 私、モテないし」
「そんな事ないよ。俺のクラスの奴も、何人かは沙耶さんの事狙ってんだって。津島さんだってそうだったし」
私はそこで一旦黙り込んだ。
そういえば、津島さんに告白されたんだった。
「俺さ、告白してから時間が経つごとに……だんだん冷静になってきて。もしかしたら早まったんじゃないかって凄く後悔したんだ。だから、出来るだけ返事も先延ばしにして貰おうって、考えてて」
「……私が断ると思ってたの?」
鳴海くんは赤い顔で頷いた。
「沙耶さんが前に言ってたの、聞いちゃったから」
「聞いちゃったって。何を?」
「……え、と。恋愛するとしても、学生は絶対に無いって。結婚出来ないなら恋愛する意味も無いって」
そんな事言ったかな、と考えてふと思い当たる節にぶつかった。
「ああっ、前に祥子さんと話してた時だね? あの時は、確かにそう思ってた。私、前の恋愛で失敗したからさ。もう二度と好きな人なんて出来ないってそう思ってたし」
「……前の恋愛って。もしかして、颯太くんの……?」
父親、という言葉を飲み込み、鳴海くんが眉を寄せた。
「そう。二十歳の時……五つ上の人と付き合ってたんだけど。妊娠を告げた途端に堕胎のお金渡されて、逃げられたの」
鳴海くんは怪訝な顔で目を見開いた。
「……そいつ、クソだな…っ」
キッと地面を睨みつけ、憤っているのが見て取れる。こんな風に怒った顔を見るのは初めてだ。
「そうだね。私も薄情な人だなって、思った。だから、颯太は温かい子に育つようにって、私と、私の両親で愛情を注いでる」
「……そっか」
少しの間、お互いに沈黙していた。今後の事を話さなければいけないのに、何となく今の空気を味わっていたかった。
冬の夜風でザザザ、と葉音が響いた。
ーーやばいな。体、冷えてきちゃった。そろそろ帰らないと風邪をひくかも。
暗い夜空を見上げて、私は肩をさすった。
「……俺で良いの?」
「えっ?」
沈黙を破り、鳴海くんが私の目を覗き込んだ。
「沙耶さんの、その……。結婚相手、俺で良いの?」
ーー結婚相手。
それ、すなわち。旦那さま……だ。
私は、はにかみながら鳴海くんを見つめた。
「“で”じゃないよ」
「え」