第2話

文字数 374文字

梨の樹にはもちろん農薬を撒いているが、昨今は低農薬の果物でないと売れない。だから、強い薬は使えない。農協の抜き打ち検査もある。

蝉の生命力は逞しい。多少の農薬ではびくともしない。健太の両親は、蝉を片端から捕まえると(簡単に素手で捕れた)、布の袋に入れ、上から踏んで圧し潰した。

もちろん、全ての梨農家が、こうやって蝉を駆除している訳ではない。健太の家では曾祖父の時代からこうやって蝉を殺してきたので、これはもう当たり前の夏の風景なのであった。

健太も、蝉を殺すのを手伝う。袋の上から長靴を履いた脚で、踏んづける。スニーカーより長靴の方が圧がかかって、楽に踏めるのだ。

蝉は体が硬いので、なかなか死なない。
ジー……、と、いつまでも鳴いている。
それを、幾度も幾度も踏んづける。
死骸は、汚い汁が出て気持ち悪いので、袋のまま可燃ゴミに捨てる。
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