第5話

文字数 288文字

「おじいさんに、お兄さんがいたの?」
「そうや。戦争でペリリュー島に行って、それきりや」

毎年、今の時分になったら、テレビで南の激戦地の特集をやりよる。アメリカが、火炎放射器の炎を防空壕に突っ込んで、中にいる日本兵を豪快に焼いとるやつや。わしはあの映像を見ると、胸がたまらんなる。わしの兄ィも、あれで、真っ黒焦げになるまで焼かれたのかもしれん。……

健太を非難する様子は微塵も感じられなかった。清水老人は、誰に言うでもない、独りごとを呟くような調子で、語っていた。

話し終わると老人は、ほなおおきに、と言って、販売所を出て行った。

健太はそれから、蝉を殺すのをやめた。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み