ソボちゃん いちばん好きな人のこと   有吉玉青

文字数 2,775文字

ソボちゃん いちばん好きな人のこと   有吉玉青
生涯娘の有吉佐和子を支え、孫娘の著者を導いてくれた「ソボちゃん」こと秋津。最愛の人との日々を通して綴られる、有吉家の物語。


ソボちゃん - 平凡社 (heibonsha.co.jp)

前回、『南下せよと彼女は言う』を読んだときは、著者が有吉佐和子のお嬢さんであることを知らなかったんだよな。


南下せよと彼女は言う: 旅先の七つの物語 | 有吉 玉青 |本 | 通販 | Amazon

あの作品はいずれも、著者はヨーロッパをよく旅行するのかな、と、思うような短編作品集だった。
最初の作品から、ちょっとニヤッとなるよね?

そう、なにしろ××……(ネタバレにつき自主規制)。

ようするに女の方がしたたか、ということなんだな、これは。
ぼくはこの本、喧嘩中のゲイカップルの話も好きだし、もちろん表題作もロマンチックで好き。

読み終わった後に心がふっとなる、そんな作品集だったよね?

著者のその母が、有吉佐和子だったとは驚いたよ。

本作『ソボちゃん』は著者が母と祖母の思い出を綴ったエッセイなのだが、その作中に登場する『恍惚の人』は、実はぼくの家にある。とにかく立派なもので、辞書のような箱入りなんだ。

おばあさんが生前に買った本でしょ? 圭さんの書庫には親子三代の本がぎっしりと並んでいるけど、箱入りの本はあれと広辞苑だけだよね。
そういえば、その広辞苑も祖母が買ったものだったりして。母が言うには「学がある」というにはちょっと無理のある人だったらしいが、こういうものは「買っておくべき物」という感覚の持ち主だったらしく。
へえ。

そんな感じで、『ソボちゃん』を読んでいるとどうしても自分の祖母のことを思い出さずにはいられない。

本作のおばあさんは、かっこいいな、って思う。

母親を驚かせようといたずらをして、そのあまりの驚きぶりに後悔して泣いている著者に言い放った言葉とか、けっこう自分の心にも刺さったよ。

わかる。なお、その時になんて言ったかは、ぜひ本著を読んでもらいたい。
天然パールピンク  田中メカ
「アイドル刑事(デカ)モモコ」で人気急上昇中のアイドル・桃野真珠が支える小さな芸能事務所「ドッグラン」。ある日、社長の息子の乾貫二は、真珠から娘の珠子を紹介される。珠子は10年前に貫二と結婚の約束をしたというのだが、彼には全く覚えがなかった。更に、真珠のアイドルとしてのイメージを壊さないように、珠子は乾家で預かり、世間には子供がいるのを秘密にすることに。ひとつ屋根の下で暮らし始めた珠子と貫二の恋の行方は…!?


天然パールピンク 1白泉社 (hakusensha.co.jp)

これは女優の隠し子と弱小芸能事務所の二代目(予定)が一つ屋根の下、というシチュエーション漫画。

貫二(未来の二代目)の着飾りたい病が、とにかく笑える。

それに対して珠子(女優の隠し子)がブチ切れたシーンがすごく好き。

あそこが起承転結の「転」だったかねえ。

彼女の負けん気の強さがすがすがしい気がした。短い物語なので展開も引っ張らないし、気持ちよく読み切れる。

内容は王道なラブコメだったのかな?
後半、すべてが脚本家の手のうちだった気もして、「そういう意図かあ」というのも多かった。

「お嫁さんにしてくれる、の約束を女の子は忘れないもの」で締めくくったところも好きだな。冒頭と末尾できちんとそろえにきたか、と。

まあ実生活では案外、女ほどケロリと忘れ、男ほどネチネチ忘れないもののように感じることも、多いのだがな??(笑

東京DTED  コタニヨーコ

「高校生になったらきっとあなたのモノにしてね」幼馴染の少女・白石楓は、そう約束して転校した。

彼女を忘れられなかった鉄雄は、念願が叶い高校で楓と再会する。しかし、彼女は鉄雄の兄のモノになってしまう。日々、隣の部屋から聞こえる兄と楓のやりとりを聞くことに耐え切れなくなった鉄雄は「ある秘密」を抱え、上京することを決意するが──!?

東京・下北沢を舞台に、様々な出会いを経て、成長していく姿を描く、心に刺さる上京青春物語!


東京DTED 1白泉社 (hakusensha.co.jp)

胸に痛い青春物語だった。
しかし、インポってそんな簡単になるもので、そんな簡単に克服できるものなのかなあ?

心の痛手の度合いは人それぞれだから、難しいよね。鉄雄(主人公)の卑屈な気持ち、ぼくはわからなくもなかったよ。

きょうだいがいれば大なり小なりどっかでこういった偏りが生まれて、どっちかが苦しむことになるんだよね。

とはいえ実際には一方的に偏る、ということはなくて、ある面では兄の方が不満を抱え、ある面では弟が、というように、いわゆるお互い様の状況になるはずなんだ。
得てして上には上の言い分があり、下には下の言い分があるからねえ。

そうそう。ただこの物語、インポが直ったあとの女性の扱いは、いただけないと思った。

それをひっくるめて鉄雄の抱える心の痛みや弱さ、を表現しているのだろうとは理解するけど、それでもあのシーンの鉄雄は大嫌いだ。

まあいろいろとあったけど、最後は自分を見つけて東京に戻ってきたね。

「流されているだけ」「逃げる」だけでは解決しない、そういうメッセージ性のある物語だった。

「逃げるしかないこともある」という、次に読んだ『僕らは楽園で結ばれる』とはその点で少し対照的だよね。
お。その話題に移ってしまうか?
僕らは楽園で結ばれる  空あすか / 南々井梢
医者一家のプレッシャーから、東京を離れて松江医大に通う京介。高校の時に出会った世界共通語“エスペラント”で、『Terno(テルノ)』という名で松江の日々をブログに綴っていたある日、『Julio(ユリオ)』という人からの書き込みが…。それをきっかけに、距離を縮めていく2人。そんな中、Julioが京介に会いに松江へ来ることに…!エスペラントで出会い、惹かれあう…。唯一無二の恋がはじまる──。


僕らは楽園で結ばれる 1白泉社 (hakusensha.co.jp)

理由はともあれ、「現実」から逃げた男女の話なんだよね、これ。


言葉があと一つのところで足りなくて、とにかく前半の二人の関係はもどかしかった。
しかし、京介のかかえている問題と水那のかかえている問題はだいぶ差があるような気が、しなくもない。
京介の場合は案外ふたをあけたら大したことなく解決したからねえ……。
なんにしてもこの作品だって、結局は逃げていては解決できなかったんだよね。逃げるか立ち向かうかはケースバイケースだし、「逃げる」ことが間違いではないんだけど、逃げて終わりにしたらこの手の作品は物語として成立しないのが難しいところだと思う。
要するにすべては「気付く」ところから。そして「向き合う」ところから。そんなふうにぼくは思ったよ。
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