第13話

文字数 1,438文字

解答
 「…あれ、俺…」
「良かった、目を覚ましてくれましたね」
「ホルニッセくん…?…なんだ、俺助かっちゃったのか」
「あの程度の高さなら人間は死にませんよ。…それより何故あんなことを」
「…わからない。寄生虫を作ったのが俺だってバレて…、それを告発したのが瑞希で…、このままじゃどうせ家にも居場所はないし…」
「ではやはりあなたがこの騒ぎの元凶…、俺を騙していたのか」
「違う!そういうつもりじゃ…。俺は本当に人々を元に戻したいと思って…!」
彼の目的が分からない。マッチポンプ?しかし、こんなことをして何を得られる?それとも本当に自己の過ちを反省して…。だが今の彼の言葉や表情から悪意は感じられない。
「そもそも何故あんなものを作ろうと思ったのだ」
「そんなつもりじゃなかったんだ…!俺はただ自分の一族の過去を知りたかっただけで…!」
「…どういうことだ?あなたの一族の過去とあの寄生虫に何の関係が?」
「閉ざされた口を開かせるにはそうするしか…。でも失敗したんだ」
彼は何を言っているのだろうか。固く閉ざされた口…、一族の過去…、理性を奪う寄生虫…
「まさか自白剤…!」
「そう、正解だよ。さすがホルニッセくんだ。きっと君なら上手くいったんだろうね」
一族がひた隠しにしてきた黒歴史。それを知りたいと思う好奇心は納得できる。しかしそれを科学の力を用いて強引に吐かせるのは異常だ。それに単なる失敗でこんな大惨事になることも…
「こんなことになるとは思わなかったんだ!本当だ!」
目の前で取り乱すこの人を俺は許してもいいのだろうか。いっそ明確な悪意を以ってこの騒動を起こしてくれた方が良かったのかもしれない。
「ああ、ホルニッセくん、いっそ俺を殺してはくれないか。自分で死ぬのは怖いんだ」
「…それはできない。俺にはあなたを殺める理由は無いし、それにこのままあなたが死んだらこの街の人々はどうなる。一生このままか?」
「それは…」
「あなたはこれから人々の目が届かない場所でひっそりとこの事態を収拾する術を考えるべきだ。それでようやく消えてなくなる権利が得られるのではないか」
「君の言う通りだね。…こんな風に誰かに叱られたのは初めてだよ」

杉谷瑞希の日記-6
やっとできた!やっぱり俺は天才だ!彼とは違いみんなを救う素晴らしい発明品!早くこれを使ってみんなを助けなきゃ!
…みんな?みんなって誰?
そりゃあこの街の、生態研究科のみんなさ。
この街の?
そう、この街のみんなだよ。
なんで?
なんでってそりゃあみんな寄生虫のせいで困っているでしょ。困っている人々を助けるんだよ。
俺が街の人々を助けるの?
そうだよ、俺しかいないでしょ。そしてみんなに愛されるヒーローになるんだよ!
みんなに愛されたいの?感謝されたいの?そのために発明したの?
いいや、結果としてみんなが喜ぶだけだよ。人聞きの悪いことを言わないでよね!
そうだよね。そうに決まっているよね。そもそも君が人間様を喜ばせるために発明なんかしないよね。でも言っておくけど君が偉大な発明でみんなを救ったとしても愛されるのは君じゃない。君の発明品だ。

あれ?おしゃべりはおしまいかい?痛いところつかれちゃった?でもね、この勝負、君の勝ちだよ。だってこれはもう自問自答の域を超えてしまっているからね。

あーあ、やっぱり不本意だけど誰かに託すしかないのかなぁ。トモちゃんとか?後は以前家出少年に住まいを斡旋したっけ。彼は寄生虫にトラウマ持ってた感じだったから上手くいけば戦士として使えるかもね。
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登場人物紹介

杉谷瑞希

科学者の国理研特区の高校生。学生ながら本部の研究者たちと研究をするエリート。容姿端麗で社交性の塊だが、実は極度の人間嫌い。

一文路直也

瑞希の唯一の親友。大財閥の御曹司だが自身はむしろ普通の人として生きたいと思っている。一族に隠された黒歴史を探ろうとするが…

白城千

『千年放浪記』シリーズの主人公である不老不死の旅人。人間嫌いの皮肉屋だがなんだかんだで旅先の人に手を貸している。

Hornisse=Zacharias

ヴァッフェル王国から留学してきた王子。振る舞いは紳士的だが、どうやらただの留学目的で訪れたわけではないようで…?

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