第2話
文字数 655文字
母と暮らした小さな家と小さな庭。入院中、草木の心配をする母のために庭の手入れをしているうちに、それは里奈の生活の一部になり、今は楽しいと思う。
土曜の朝、暑くなる前にと里奈は早起きして草取りをしていた。雑草は強い。夏の強烈な日差しをものともせず、元気な緑色の葉を伸ばしている。
「タンポポは抜かないでね」
母は病院のベッドで何度か里奈に言った。なぜかと尋ねると、
「だってかわいいじゃない」と、母は赤ちゃんを見るときのような優しい顔で言っていたっけ。
寒い冬を越え春の気配がしてくると、この小さな庭には、あちらこちらから黄色いタンポポの花が顔を出す。母が逝ってしまった三月のあの日、この庭では、シンボルツリーのミモザの花と、タンポポの、どちらも明るい黄色の花が、冷たい風の中で咲いていた。
はしゃいだ子どもの声がして顔を上げると、向かいの家から人が出てくるところだった。三十代の夫婦と二人の小学生の男の子。玄関に鍵をかけた奥さんが里奈に気づき、声をかけながら近づいてきた。
「里奈ちゃん、おはよう!早起きだね!」
里奈はこの愛子さんのことがとても好きだ。いつも明るく、やさしい。母が元気だった頃は、おしゃべりしながら一緒になって土をいじり、よく母を手伝ってくれていた。
少しのおしゃべりをしたあと、
「明日の朝は一緒に草取りしよう!」
そう言って愛子さんは家族が待つ車に乗り込んだ。走り出した車の中からみんなが手を振り、里奈も笑顔で大きく手を振り見送った。夏休み最後の土曜日、家族でデイキャンプに行くらしい。
土曜の朝、暑くなる前にと里奈は早起きして草取りをしていた。雑草は強い。夏の強烈な日差しをものともせず、元気な緑色の葉を伸ばしている。
「タンポポは抜かないでね」
母は病院のベッドで何度か里奈に言った。なぜかと尋ねると、
「だってかわいいじゃない」と、母は赤ちゃんを見るときのような優しい顔で言っていたっけ。
寒い冬を越え春の気配がしてくると、この小さな庭には、あちらこちらから黄色いタンポポの花が顔を出す。母が逝ってしまった三月のあの日、この庭では、シンボルツリーのミモザの花と、タンポポの、どちらも明るい黄色の花が、冷たい風の中で咲いていた。
はしゃいだ子どもの声がして顔を上げると、向かいの家から人が出てくるところだった。三十代の夫婦と二人の小学生の男の子。玄関に鍵をかけた奥さんが里奈に気づき、声をかけながら近づいてきた。
「里奈ちゃん、おはよう!早起きだね!」
里奈はこの愛子さんのことがとても好きだ。いつも明るく、やさしい。母が元気だった頃は、おしゃべりしながら一緒になって土をいじり、よく母を手伝ってくれていた。
少しのおしゃべりをしたあと、
「明日の朝は一緒に草取りしよう!」
そう言って愛子さんは家族が待つ車に乗り込んだ。走り出した車の中からみんなが手を振り、里奈も笑顔で大きく手を振り見送った。夏休み最後の土曜日、家族でデイキャンプに行くらしい。