第4話

文字数 433文字

 翌朝、愛子さんと庭の手入れをしたあと、冷たいシャワーを浴びながら、里奈は愛子さんの言葉を思い出していた。
「おばさん、タンポポをすごく可愛がっていたよね。三月生まれの里奈の花だと言って。」
 誕生日の花というものがあって、里奈はタンポポなのだという。誕生花というものがあることを知らなかった。タンポポをかわいがっていた母の、やさしい目を思い出した。すると、幼い頃の記憶が次々と里奈の脳裏によみがえってきた。
 里奈はシャワーで火照る頬を冷やしながら、目を閉じて、しばし子どもに戻り、なつかしい感情を味わっていた。小学校の発表会。練習で苦労したリコーダー演奏が出来た時。その母の顔。幼稚園の運動会で転んで、泣きながらゴールした時。その母の顔。記憶の中で自分を見ている母の顔は、タンポポを見ている母の顔と重なった。
 もしかして・・・。突如浮かんだ考えに、里奈の胸はざわめいた。急いで濡れた体を拭き、バスタオルを巻き付けて自分の部屋へ向かう。パソコンを開いて誕生花を検索した。
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