正義の少女
文字数 1,961文字
狭い路地裏で一人、学生服の少年が上ずった声で呟いていた。
チョロイという言葉のわりに、緊張の残る強張ったニキビ面。
色気づいた感じに垂らした前髪を払うように、ほんのりと浮かんだ額の冷や汗をぬぐい、ポケットから取り出したのはポテトスティックのスナックカップ。
すぐ隣のコンビニからくすねてきた本日の戦利品だった。
チョロイという言葉のわりに、緊張の残る強張ったニキビ面。
色気づいた感じに垂らした前髪を払うように、ほんのりと浮かんだ額の冷や汗をぬぐい、ポケットから取り出したのはポテトスティックのスナックカップ。
すぐ隣のコンビニからくすねてきた本日の戦利品だった。
醜い笑みで顔を歪ませ見惚れる。
別に腹が減っていたわけではない。物を盗むと世の中に影響を与えられた気がしてアソコが勃つほど気持ちイイのだ。
別に腹が減っていたわけではない。物を盗むと世の中に影響を与えられた気がしてアソコが勃つほど気持ちイイのだ。
しかし、その素敵な時間は、背後から掛けられた冷ややかな声によって破られた。
ニヤつかせていた顔が凍りつく。
振り返ると、すぐ後ろに声の主――怒りを込めた大きな瞳で、真っ直ぐに彼を睨みつける美少女が立ち塞がっていた。
振り返ると、すぐ後ろに声の主――怒りを込めた大きな瞳で、真っ直ぐに彼を睨みつける美少女が立ち塞がっていた。
ミサキと呼ばれた少女は、ややクセがついていてボーイッシュな雰囲気もなくはないセミロングの栗色の髪を肩越しに片手で払うと、恐れ気もなく更に一歩前に進み出た。
体格が良いわけではない。
万引き少年、家谷よりは頭ひとつ低い背丈。細い手足、丸みを帯びた普通の女の子の体つき。
体格が良いわけではない。
万引き少年、家谷よりは頭ひとつ低い背丈。細い手足、丸みを帯びた普通の女の子の体つき。
それでも、家谷が気圧され、後ずさりしてしまったのは、その満身から立ち上る正義感の迫力のせいだった。
少しも怯むことなくハキハキとした口調で説教をするミサキは、少し離れて心配そうにしている連れの女友達二人を隠すかのように、両手を腰に当て、背筋を伸ばした姿勢をとっていた。
実は目撃したのは彼女自身ではなく、後ろにいる友達の夏奈と樹里だったのだが、敢えて代わりに自分が見たと言う。
ミサキはそんな性格をしていた。
ミサキはそんな性格をしていた。
家谷がたじろいだそのとき――彼の手の中でスナックカップが震えた。
ぽぅんっと勢いよく膨れ上がるお菓子の容器。
カップの腹には暴帝めいた充血する眼孔と巨大な口が裂け、無数に並んだ鋭いポテトスティックの牙と真っ赤な舌を躍らせて大きく咆哮する。
カップの腹には暴帝めいた充血する眼孔と巨大な口が裂け、無数に並んだ鋭いポテトスティックの牙と真っ赤な舌を躍らせて大きく咆哮する。
息を呑み、目を見張るその場の一同。
魔が宿りし『物』――魔物。
交通事故よりは少ないが、話には聞いたことがあるその遭遇。TVや新聞では見る。が、誰もまさか自分がとは思わない。
魔が宿りし『物』――魔物。
交通事故よりは少ないが、話には聞いたことがあるその遭遇。TVや新聞では見る。が、誰もまさか自分がとは思わない。
一番うろたえているのは家谷だ。
魔物化は彼の意図によるものではない。
彼の悪い心が勝手にカップに乗り移ってしまったものなのだ。
みっともなくビビッた彼に放り投げられた魔物はミサキの頭上を越えて後ろの二人の前へと飛んだ。
魔物化は彼の意図によるものではない。
彼の悪い心が勝手にカップに乗り移ってしまったものなのだ。
みっともなくビビッた彼に放り投げられた魔物はミサキの頭上を越えて後ろの二人の前へと飛んだ。
少女たちの悲鳴と、ゾッとするような魔物の叫び声が重なった。
突然の事態と、魔物の恐ろしさに硬直していたのは一瞬の事、友人の危機に我に返ったミサキが、躊躇なく魔物の前に身を投げ出し二人を庇う。
責任転嫁した上に、これ幸いと路地の向こうへと逃げ出すクズ野郎。だが、それを追っている場合ではない。
なす術なくうずくまる友人を、己もまた同様に無力でありながら、ミサキは精一杯抱き締める。そのとき――
不思議な閃光が路地一杯に広がり、次の瞬間、後方へと吹き飛ぶ魔物。
代わりにミサキの前に立っていたのは、花の形のエンブレムとリボンの、ふわりとしたコスチュームに身を包んだ美少女だった。
代わりにミサキの前に立っていたのは、花の形のエンブレムとリボンの、ふわりとしたコスチュームに身を包んだ美少女だった。
その背を覆う長くて艶やかな黒髪。
超常のオーラを立ち昇らせたしなやかな身体に、豊かに張り出したバストとヒップ。
少女というにはやや大人びた印象を与えるのは、どこか寂し気な厳しい顔つきのせいか。それでも彼女は「少女」と呼ばれるべき存在だった。
超常のオーラを立ち昇らせたしなやかな身体に、豊かに張り出したバストとヒップ。
少女というにはやや大人びた印象を与えるのは、どこか寂し気な厳しい顔つきのせいか。それでも彼女は「少女」と呼ばれるべき存在だった。