魔法少女の戦い

文字数 1,643文字

魔法少女……本物……!?
魔法少女。それは魔物を退治し、ときには災害などから人々を救う謎の存在。ニュースになることはあっても、彼女たちがどこから来てどこへ去っていくのかは誰も知らない。

だが、ミサキのその反応に魔法少女の方もまた驚きを感じたらしかった。
あなた……気を失わないの?
えっ!? あっ……夏奈、樹里っ!
ううーん……
ああっ……
どうしたの、二人とも! 
二人の友人が傍らでドサリと地面に倒れるのを見てミサキが恐怖する。

しかし、黒髪の少女は平静だった。
大丈夫……魔法の力にあてられて、失神しただけ。意識を保っていられるなんて、あなた魔法の才能があるのね。
えっ!? 私に……魔法の……?
話は後っ、まだ魔を祓えていな……
え……
コノ糞ビッチガアアーッー!
きゃあっ!
怒りで元の大きさの何倍ものサイズとなったカップの再襲来!

ぼうっとしていたミサキを守ろうとした魔法少女がモロに体当たりを食らい、空高く吹き飛んだ。路地を囲むビルの壁に叩きつけられて小さな悲鳴を漏らす

そこへ、とどめとばかりに、魔物が突進する。だが、今度は彼女の方も迎撃態勢を整えていた。
断末の魔法、キュアー・バインド!
グアアアアアアーッ!
五芒星状に展開された輝く魔法陣が肥大化した魔の体に絡みつく蔦となって縛り上げ、巨大な花弁が魔物の苦痛の慟哭を呑み込み……そして。

あっけにとられて見上げていたミサキの足元に、元通りに戻ったスナックカップがポトリと落下した。
凄い……これが、魔法の力……。
もう大丈夫よ……
ううっ!
その傍にフワリと着地した魔法少女が呻いてふらつき、壁に手をついて身体を支える。

その瞬間、色鮮やかだったコスチュームがノイズの入った映像のようにボヤけて彼女の変身が解け、その姿にミサキは再び驚きの声を上げた――今度は、彼女のその正体に。
あなたは! マリヤさん……!?
……。
ひとつ上の学年の、学園の誰もが知る才女。成績ばかりでなくその大人びた美貌と、聖女のような優しさで誰からも慕われている憧れの人。無論の事、ミサキも尊敬している。
マリヤさんが、魔法少女だったなんて……!
くっ……
大丈夫ですか、マリヤさん。どこか怪我を!? あっ、血が……!
ううん。平気よ……これくらい……
そう言って口の中で何か唱えて傷口に手を当てるマリヤ。

柔らかな白い光が優しく照らすと、その肌の裂傷が薄くなり消失する。
それ……魔法ですか?
ええ。魔法は、癒しの力でもあるの。
凄い……
あっ
どうしたの?
すいません! お礼を言うの、忘れてました! 助けて下さってありがとうございます!
ふふ、面白い子ね、あなた。でも、いいのよ、魔物を退治するのは私たち魔法少女の役目なのだから。
そう言って優しく微笑むマリヤは、学園でいつも目にする優しい先輩そのまま……そのせいだろうか、ミサキはつい、口走っていた。
あのっ、私でも魔法少女になれますか!? さっき才能があるって……マリヤさんと一緒に人を助けたいです!
そんなことは考えないで!
……!
魔法少女は、あなたが考えているより過酷なものよ――
そんな、私そういうつもりじゃ……
聞いて。あなたの気持ちは嬉しい。軽い気持ちでないということも信じる。それでも……なりたいなんて言わないで。私は魔法少女が必要ない世の中にする為に戦っているのだから。
諭すように言って年長の少女は表情を改める。いつもの思いやり深く優しい、しかし、どこか憂いを秘めた顔に。
……。
それじゃ、私の正体は黙っていてね。
(マリヤさん……どうしてだろう。とても寂しそう)
立ち去るその背中を見送ったミサキは、傍らで眠る夏奈と樹里に目をやった。
すぅ……すぅ……
むにゃむにゃ……
よかった……マリヤさんの言う通り、二人ともただ気を失っているだけみたい。怪我もないわ。
彼女たちの落ち着いた呼吸を確認すると、ミサキはそっと、その場を離れた――マリヤの後を追って。
それでも私、魔法少女になりたい! 過酷だという戦いをするマリヤさんの力になりたい! 魔物に苦しめられている人たちを助けたい!
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登場人物紹介

海鳴岬うみな・みさき)

正義感が強くて勝気な普通の少女。
悪を見過ごさず立ち向かう勇気と、他人を見捨てない優しさ持つ。
魔法少女ミサキとして「魔」と戦う決意をするが……。

神居真理弥かむい・まりや)

ミサキと同じ学園に通う上級生。
美人な上に成績優秀で清楚な、全校生徒の憧れ的存在。
正体を隠して魔法少女マリヤとして「魔」と戦う日々を送っている。

夏奈(なつな)

ミサキの親友。

樹里(じゅり)

ミサキの親友。

家谷(いえだに)

ミサキの同級生。卑怯な性格で学園の鼻つまみ者。

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