第1話

文字数 535文字

生まれつきだった。
お乳をねだるちいさな子猫のかたまり蠢く母猫の腹、
みいみい みいみい みいみい ぷるるる みいみい
かれは、気付いてなかった。
いっつもきょうだいたちがやかましく鳴いていて、その、かれの変な鳴き声はかき消されていた。
そのうちに、乳離れすると、きょうだいは散り散り、駆け回ったりじゃれあったり。
その頃に、周りは気付いた。
しかし、かれ自身は気付いてなかった。
けれど、母猫やきょうだいたちは気にしてないみたいだった。
だから、余計に気付かなかったのかもしれない。
そんなふうに成長して、そのうち大人になるんだ。
そんなふうに思っていたある日、突然に寝ぐらから、かれ以外が居なくなった。
まだちいさいかれは、幾日もみんなの帰りを待ったが、ついに誰も帰って来なかった。
腹が減り、道をはさんだ公園に出た。
何かを食ってる人間を見つけては、すり寄って鳴いた。
母猫じゃなくても、すり寄って鳴いたら、何か食わせてくれるかもしれない。
「あら捨て猫かしら、こんなに人懐こいなんて。
かわいい!ねえ、見て見て!」
「どれどれ、ほんとだ。」
今だ! 
ぷるるる…
空腹で、より小さなその声は、より微かに、何かの電子音か、鳩の鳴き声みたかった。
「鳩が鳴いたね、そうだ、鳩にエサ投げに行こう」
行ってしまった。
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