叙述曲「ユウタイホンヤク」
文字数 1,070文字
一番
この世には 不思議なことがあるものだ
幽体のように 第三者
ただ見ているだけの本役(ロールプレイ)
ぼくの役割は見ているだけだ
みなのかわりに 見るのが役割
みなのかわりに きくのが役割
ユウタイホンヤク ユウタイホンヤク
いまから歌うは、よくある話
ふたりの男女がむすばれた
二番
同じ場所で生まれ育って
いつも いつでも いっしょだった
まわりの勧めがふえてくる
お似合いね 仲良くね
徐々に 外堀 埋められる
いっしょにいるだけだった
たき ゆかり
いま ふたり
夫婦のラベルが貼られている
ワナビー ワナビー
三番
この世には 悲しいことがあるものだ
あるとき ふたりは喧嘩した
飛びあがって、蹴り合った
ぼくは見ていた きいていた
喧嘩の原因 子どもの不在
しゃがんだときに 落下した
こっちだ ここだ ぼくの声は とどかない
ユウタイホンヤク ユウタイホンヤク
そこら中が 大慌て
ゆかりの神経 高ぶった
四番
ふたりの 気持ちは はなれてる
ぼくは そばで 見ているだけだ
たきは ゆかりをさわりはじめた
お腹のしたへと 手がのびる
子どもを求めて さわったことだ
それがゆかりを 怒らせた
夫婦のラベル 剥がされた
ワナビー ワナビー
五番
この世には 悲喜交々が あるものだ
ついに 別居がはじまった
まわりがきめて ふたりを離した
留守になって 家宅捜索
大人数で 探しに 探し
子どもが やっと見つかった
外堀の なかにいた
ゆかりの手元に もどされる
お腹のしたへと 手がのびる
ぼくは ひょっこり 顔を出す
たきは とおく 外の外
金網あいだ 彼の目だけが 見えている
ふたりの同居は はじまらない
ユウタイホンヤク ユウタイホンヤク
ふたりが ようやく 仲直り
その切っ掛けは 意外な人物……
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六番
「見て かわいいワラビーね」
檻の外 ふたりの人間 指差した
そう ワラビー
ぼくたちは 動物園のワラビーだ
人気者のワラビーだ
ゆかりが びっくり あとずさる
たきが 檻から大反応
飼育員が ドアあけた
たきは飛び出し ゆかりを大事に守ってる
子どものぼくを かばってる
ワラビーたちは仲直り
夫婦 家族 仲直り
有袋翻訳 有袋翻訳
生後五ヶ月
ぼくは 袋のなかの子どもだった
見ているだけ
きいてるだけ
いつしか ぼくも ワナビー ワラビー