終末少女兵器X 3話

文字数 2,541文字

危険を察したエマはルーの手を握ったが、ルーはその手を振りほどき、異形の生物に近づいて行った。
ルー!危険だ!こっちに戻って来い!!

エマの必死な叫びを無視し、ルーはその生物の方へ走っていく。


その生物もルーの事を認識したらしく、体の前方を上げ覆いかぶさるような体制になった。

ルー!喰われちまうぞ!どうしたんだ!? ルー? どうしてソイツの方へ行く!!

ルーの行動に理解ができないエマは、必死にルーに問いかける。


そして、その生物はルーを覆いかぶさるように包み込んだ。


しかし、その動作はルーを優しく抱きかかえるようにも見えた。


ルーはその生物に包まれ、ルー自身もその生物を抱きしめていた。

エマ、私は大丈夫だよ。 この子はね、私達にとっては怖い見た目かも知れないけど、心は優しい子みたいなの。 ここに来る前にとても怖い思いをして、助けを呼んでたみたい……まるで、小さな子供が母親に助けを求めているみたいに、泣いてる声が聞こえたの。 だから、私はどうしてもこの子の所に行きたかった

エマはその生物の体を見ると、銃で撃たれた穴が無数に空いて、そこからは青い体液が流れていた。


衝撃で強化ガラスが割れ、その生物が出てきてしまい、警備員が銃で始末しようとしたのだろう。



エマ達の光景を遠くから観察している人影があった。


それは主任の女性だった。施設の衝撃で頭に裂傷し、顔の半分は血で染まっていた。

なんて事なの……Mk28があの生物の思考を読んでいる……実験は成功していたのね……

「ガシャン!!」


更なる衝撃が施設を襲い、施設内では黒煙と炎が至る所で発生した。


施設の崩壊もあと僅かという感じになってしまった。

エマ、今までありがとう……でも、お別れみたい……この子……ミューに触れて、ミューの記憶が私に流れ込んで、いろいろとわかっちゃったの……私達、人間……いえ、地球はもうダメみたい……
次々と施設の部品が崩れ落ちる中、エマはその言葉の意味を聞いた。
地球がダメって、どういう意味なんだ!? ソイツらが地球を滅ぼすのか!?
それを聞いたルーは、首を横に振った。
この子達の仲間はそんな事はしないは、むしろ上空で地球を守る為に戦っているの……

エマは食い気味でルーに尋ねる。


それじゃ何が、地球を滅ぼすんだよ!?
ルーは片手を胸に当て、質問に答えた。
私達、人間が作ったモノだよ。 人間がこの子達の細胞で作った、人間とこの子達の子供のような生き物が暴走してるの……でも、その生き物も苦しんでる……自分の体を制御出来ずに、苦しんでいるの……ミューの考えでは、もう地球はその生き物に滅ぼされてしまうみたい……
エマは膝からガクッと倒れ、うなだれる。
つまり、その地球を滅ぼそうとしている生き物って、元はアタシらみたいな女の子って事か……
ルーも悲しい顔で答える。
たぶん、そうだと思う。 別の施設で行われた、私達とは違う実験をさせられた女の子だと思うよ……
通路の影から、エマ達の会話を聞いていた主任は、うなだれながら不敵な笑みを浮かべていた。
ハハハ……、私達は一体何をやっていたのだろう……未知の生物を恐れ、それを利用し、そして自滅の道を選んでしまった。 恐ろしい見た目から、相手が友好的な存在とは思わず、私達人間はなんと愚かなんだ……もっと、相手の事を考え、共に共存する方法を考えれば、こんな事にはならなかったかも知れない……本当に愚かだ……私達は……

そういうと主任は壁に背を向け、狂ったように笑い出した。


施設は崩壊を始め、主任の頭上の瓦礫が崩れ落ち、主任は瓦礫に押しつぶされ絶命した。


それはエマ達も同じで、エマの上からも瓦礫が振ってきた。


その瞬間、ミューと呼ばれる生物はエマに何かの力を放った。


するとエマは半透明の球体状の壁に包まれた。


ルーはミューに覆いかぶさり、瓦礫を防いでくれている。

エマ、ミューは私の体を通して、エマの優しさを知ったみたい。 それで、エマに地球の未来を託したいみたいだよ。 可能性は低いかも知れないけど、生まれ変わった地球で、私達の分まで思いっきり生きてね。
エマは球体の内側からルーに訴えかける。
ルー、お前も来いよ……一人は寂しいよ……

ルーは首を振る。

それには一人しか入れないみたいなの……
エマがその答えに疑問を投げかける。
だったら、ミュー……、ルーの分も、この球体を作ってくれよ……

ルーは答える

ミューの今の力だと、1つ作るのがやっとみたい……だからエマの分だけしか作れないの……
その答えにエマは涙ながらに訴える。
それなら、アタシの代わりに、ルーがこの球体で助かってくれよ……
ルーはまた首を振る。
私はミューと一緒にいる事にするね……ミューはとっても優しい子なんだよ……酷い事を沢山されたけど……それでも、人間を何とか救おうと色々としてくれたみたい……私はこんな優しいミューを一人にできない……私はミューと一緒にいるね……エマ、ゴメン……

エマは球体の中で泣き崩れる。


ルーはミューを抱きしめ、エマに微笑んだ。

もし、私達も生き残ることが出来たら、新しい地球で会おうね。 バイバイ

そういうとエマを包んだ球体が、上空へ舞い上がった。


宇宙を目掛け上昇するドームは凄まじいスピードを上げ、大気圏を越え宇宙空間まで達した。


宇宙空間でも、この球体の中では呼吸もできている。


エマは球体の内側から、地球を見つめた。


すると日本が位置する場所で大爆発が起き、更に各地で大爆発が起こった。


みるみる大地は、世界地図とは違う大陸へと変わっていった。


エマは、人間と動物や生物が死に絶えていく地球を見つめ、絶望し球体の中で大声で泣き叫んでいた。


そして次第に意識は薄れ、最終的には意識を失ってしまった。









エマは徐々に意識が戻り始めてきた。


球体は宇宙空間から徐々に地球へと向かっていく。


周りを見ると、エマが入った球体と同じ球体が無数にある。


その中には人間や動物、様々な生物が入っていた。


そして無数の球体は地球の大地へと向かって行った。


いったいどれ程の時間が経過したのだろう、大地は一面に緑で溢れている。


エマが地上に降りると、球体はシャボン玉のようにパンと割れた。


エマはルーの事を思い、泣き崩れた。


そのとき、微かな声でルーの声が聞こえた気がした。

……おかえりなさい
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